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相続した共有物の時効取得

私は,母から母が住んでいた不動産を相続しましたが,登記をする際,その不動産が母の単独所有ではなく,母と弟(私からすると叔父)の共有名義であることを知りました。
叔父も亡くなっていますので,どうして共有名義になっているかはわかりませんでしたが,特に私が住む分には困らないため,そのまま住み始めて20年経過しましたが,時効の主張はできますでしょうか?

1 ご回答
(1)長く占有していれば自分の物になるわけではありません。
まず,他人の物を長期間占有しているだけで時効取得ができるわけではありません。
たとえば,賃料を払って30年建物を借りている人が時効で建物所有権を得られる訳ではありません。時効を主張するためには,自主占有と言って,「所有の意思をもってする占有」がなければなりません。賃借している場合はあくまで他人の物を借りているという認識しかありませんから,こういった占有のことを,自主占有と対比して他主占有と言います。
共有物の場合も,占有していても他人の共有持分部分について自主占有と言うことはできず,他主占有だと言えます。
したがって,お母様は,自主占有をしていたとは認められず,お母様が時効取得していた余地はありません。

 
(2)相続で自主占有となる場合は限られています。
では,相続したご相談者の方が時効取得する余地はあるか,ですが,原則的にはお母さんの占有を相続によって承継したという立場ですので時効取得することはできません。
したがって,相続をする際に,共有であることを全く知らず,もっぱらお母様の所有物であることを信じ,固定資産税を支払ったり,その物からの収益を一方的に行ったりしていたような自主占有と認めるべき特別な事情がない限りは,時効取得できないものと考えていただく必要があると考えます。
弟さん側の相続人が不動産に興味が無い場合には当該相続人から相続分の譲渡を無償で受けるなどして,解決していくのがよいだと思います。

 

2 参考判例
最高裁昭和46年11月30日判決
「被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法185条にいう「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきである。」

最高裁平成8年11月12日判決
「これに対し、他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合において、右占有が所有の意思に基づくもの であるといい得るためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、占有者である当該相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきものと解するのが相当である。
けだし、右の場合には、相続人が新たな事実的支配を開始したことによって、従来の占有の性質が変更されたものであるから、右変更の事実は取得時効の成立を主張する者において立証を要するものと解すべきであり、また、この場合には、相続人の所有の意思の有無を相続という占有取得原因事実によって決することはできないからである。
2 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、上告人Aは、Dの死亡後、本件土地建物について、Dが生前にCから贈与 を受け、これを上告人らが相続したものと信じて、幼児であった上告人Bを養育する傍ら、その登記済証を所持し、固定資産税を継続 して納付しつつ、管理使用を専行し、そのうち東門司の土地及び花月園の建物について、賃借人から賃料を取り立ててこれを専ら上告 人らの生活費に費消してきたものであり、加えて、本件土地建物については、従来からCの所有不動産のうち門司市に所在する一団の ものとして占有管理されていたことに照らすと、上告人らは、Dの死亡により、本件土地建物の占有を相続により承継しただけでなく、 新たに本件土地建物全部を事実上支配することによりこれに対する占有を開始したものということができる。
そして、他方、上告人ら が前記のような態様で本件土地建物の事実的支配をしていることについては、C及びその法定相続人である妻子らの認識するところで あったところ、同人らが上告人らに対して異議を述べたことがうかがわれないばかりか、上告人Aが昭和47年に本件土地建物につき 上告人ら名義への所有権移転登記手続を求めた際に、被上告人Eはこれを承諾し、被上告人G及び被上告人Iもこれに異議を述べてい ない、というのである。右の各事情に照らせば、上告人らの本件土地建物についての事実的支配は、外形的客観的にみて独自の所有の 意思に基づくものと解するのが相当である。原判決の挙げる(1) Cの遺産についての相続税の修正申告書の記載内容について上告 人Aが格別の対応をしなかったこと、(2) 上告人らが昭和四七年になって初めて本件土地建物につき自己名義への所有権移転登記 手続を求めたことは、上告人らとC及びその妻子らとの間の人的関係等からすれば所有者として異常な態度であるとはいえず、前記の 各事情が存在することに照らせば、上告人らの占有を所有の意思に基づくものと認める上で妨げとなるものとはいえない。
右のとおり、上告人らの本件土地建物の占有は所有の意思に基づくものと解するのが相当であるから、相続人である上告人らは 独自の占有に基づく取得時効の成立を主張することができるというべきである。」

※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。

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