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企業のお客様へ : 労働紛争

パワハラについて

龍達工業の織田総務課長は、困り顔で顧問弁護士の下を訪れました。織田課長の相談は次のようなものでした。

堂林という新入社員が,態度が悪かったため,担当の課長が「意欲がない,やる気がないなら,会社を辞めるべきです。会社にとっても損失です。あなたの給料でアルバイトが何人雇えると思っているのですか?」という叱責メールを堂林に送りました。叱責メールの文字は赤字で,しかも会社の同僚全員に一斉メールしました。

堂林は,担当課長のこのような行為はパワハラであり,訴えてやる!とテレビ番組の真似をして息巻いています。

会社として,何か対応した方が良いでしょうか?

 

パワハラって何? 

 

織田 最近,パワハラという言葉をよく耳にします。新入社員が上司に楯突くときに使うようです。

 一口にパワハラといってもどのような行為がパワハラなのか,よく分かりません。

 言葉が一人歩きしているような気がしてなりません。

 

弁護士 セクハラと並んでパワハラという言葉は,認知度が高くなっていますね。

 セクハラは,雇用機会均等法11条で定義されていますが,パワハラは法律上の定義がなされていません。

 一般には,指導に名を借りた暴言・暴力,誹謗中傷,侮辱,職場における各種無視,過重・無理な業務を指示する,若しくは何もさせない,等の言動が繰り返されると,パワハラと言えるのだと思います。

 

織田 何となくは分かりましたが,非常に曖昧ですね。どういった事実があるとパワハラとして責任を負うことになるのですか?

 

弁護士 要は,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうかがポイントになるでしょう。

 言動の態様,行為者の地位,言動のねらい,必要性・合理性,言動によって従業員が受けた不利益の程度,反復継続性といった点が問題になると思います。

 

問題となった事例 

 

織田 現実の裁判では,どんな事案でパワハラが認められているのでしょうか?

 

弁護士 まさしく今回のような事例で,東京高裁は,上司の責任を認めました(東京高判平成17年4月20日)。

 裁判所によると,指導や叱咤激励の目的があったのは理解できるが,赤い大きな字のフォントを使ったり,職場の同僚全員にわざわざメールを送ったのは,許容限度を超えている,ということでした。

 ただ,請求認容額は,5万円でした。

 

 また,東芝府中工場事件では,ある従業員が春闘のビラを配っていたことから,上司に目をつけられ,上司から些細なミスについても、逐一始末書の提出を求められるようになった,という事案で,上司は感情に走りすぎたきらいがあるとのことで,違法と言わざるを得ないという結論になりました(東京地裁八王子支部平成2年2月1日)。

 請求認容額は,15万円でした。

 

織田 上司にはいささか厳しい結論ですね。ましてや,我が社のケースでも違法と言われてはたまりません。

 

弁護士 まあでも,5万円のために裁判をする人はいないので,それほど心配しなくてもいいでしょう。

 ただ,上司たるもの,ストレスの発散のような形で不必要に部下を叱ったりすると,しっぺ返しをくらいます。

 今回の場合は,上司に「やりすぎた,すまん。」と謝罪させ,丸く収めた方がよさそうです。

 

弁護士 厄介なのは,被害従業員が精神的な疾患にかかり,仕事を辞めざるを得なくなるような場合です。こういうケースでは,従業員側が会社や上司が悪いと思い込むので,会社を巻き込んでの訴訟になりがちです。

 パワハラの報告を受けたときの初期対応を誤ると,使用者である会社の責任まで認められてしまうことがあります

 

織田 いわゆる使用者責任(民法715条)というものですか?

 

弁護士 さすが,お詳しいですね。

 使用者責任という形だと,加害従業員の責任が認められれば,即会社の責任が認められることになりやすいです。

 管理職にはパワハラについての研修を行って,管理職を監督することも転ばぬ先の杖ですよ。

 

織田 よく分かりました。

社内でも励行したいと思います。

 



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