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弁護士法人 片岡法律事務所
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名古屋の弁護士Q&A

悪戯書き事故と車両保険金請求(立証責任)

車両に対する悪戯書き事故と車両保険金請求について,立証責任はどうなっているか。
結論

車両の悪戯書き事故に関する最高裁判例はありませんので,立証責任に関する確定的な裁判例はありませんが,東京高裁レベルでは,保険金請求者側の立証責任は,①「損傷が人為的にされたものであること」及び②「損傷が被保険者以外の第三者によって行われたこと」という事実について立証責任があるものとされています。

判例

東京高等裁判所平成21年11月25日判決は,次のとおり判示しています。
「そこで、いたずら事故について保険事故として保険金を請求する者の主張立証責任につき検討する。
いたずらとは、一般に無益で悪いたわむれのことであり、本件に則していえば、所有者の意思に反する第三者による車両への損傷行為をいうものと解することができるが、本件保険契約においては、被保険自動車のいたずらによる損傷という保険事故が保険契約者又は被保険者の意思に基づいて発生したことは、保険者が免責事由として主張、立証すべき事項であるから、被保険自動車のいたずらによる損傷という保険事故が発生したとして保険金の支払を請求する者は、被保険自動車への損傷行為が被保険者の意思に基づかないものであることを主張、立証すべき責任を負うものではない。

 
しかし、上記主張立証責任の分配によっても、保険金請求者は、「被保険者以外の者がいたずらをして被保険自動車を損傷したこと」といういたずらによる損傷の外形的な事実を主張、立証する責任を負うものというべきである(最高裁平成19年4月23日第1小法廷判決・判例時報1970号106頁参照)。そして、いたずらによる損傷という保険事故の外形的事実としては、①「損傷が人為的にされたものであること」及び②「損傷が被保険者以外の第三者によって行われたこと」という事実から構成されるものと解される。

 

本件においては、何者かによるいたずら行為を目撃した者の証言などの直接的証拠は存在しないので、保険金請求者としては、①「損傷が人為的にされたものであること」については、これを推認するに足りる、本件車両パネルの損傷の個数や傷跡の形状、道具を使用した傷であるか否かなどの間接事実を、②「損傷が被保険者以外の第三者によって行われたこと」については、これを推認するに足りる、損傷が加えられたと考えられる時刻、場所、損傷を生じさせるに要する時間及び被保険者のアリバイの有無などの間接事実を主張立証すべきであると解される。」

運行供用者責任に関する新しい判例

(要旨)
20歳女子が父親所有乗用車を乗り出し、飲酒、泥酔したため、一緒に飲酒の親しい友人が女子を車に乗せて、車を運転、帰宅途中の本件事故につき、泥酔していたとはいえ、友人の運転には「女子の容認があった」、娘が乗り出した以上、所有者父の「容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ない」と、女子車所有者・女子の父に運行供用者責任を認めた。

 

(判旨)
これらの事実によれば、女子は、父から本件自動車を運転することを認められていたところ、深夜、その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから、その運行は父の容認するところであったと解することができ、また、女子による上記運行の後,飲酒した女子が友人等に本件自動車の運転をゆだねることも,その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきである。そして、女子は、電車やバスが運行されていない時間帯に、本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから,客観的外形的に見て、本件運行について、運行供用者に当たると解するのが相当である。
以上によれば、本件運行について父が運行供用者に当たらないとして女子の請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、女子が父に対する関係において法3条にいう「他人」に当たるといえるかどうか等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

 

(所感)
審級毎に判断が分かれる微妙な事案だったのでしょうが,運行供用者責任は,盗難の場合など相当限定された場合にしか否認されないですので,上記最高裁判決も予想の範囲内でしょう。

 

最高裁平成20年9月12日判決

新判例:悪戯事故につき、保険金請求者側に「偶然の」事故であることの立証を要求

(事案)
車愛好家の原告が、自宅マンション半地下駐車場に駐車中の高級車が落書傷をつけられたと、876万6,666円を求めて訴えを提起した事案。

 

(判決の概要)
裁判所は、落書傷が偶然な事故によるものとするには「合理的な疑いを払拭することができない」として、原告の請求を棄却した。
3人の若者との口論が落書傷の発端との主張につき、その若者達が塗装スプレーや「刃物などの道具を用意して犯行に臨んだ」とは考えにくく、事故現場は地下鉄出口の近くで、コンビニ店も近く、犯行が人目につく可能性が高い、落書傷発見時の供述等に不自然さが多々ある等、事故の偶然性を認める証拠がないとの理由で、原告の請求を棄却した。

 

(コメント)
被保険者等の故意を認めたのではなく、
偶然性がないことを認めて請求棄却した事例であり、その意味で貴重です。

被保険者等の故意を立証することに比べると
保険会社の負担はかなり小さくなるものと言えましょう。

一見、先の最高裁判決と矛盾しているようにも見えますが、
東京地裁の判例ということもあり、一定の実務的影響があると思います。

会社に与えた損害と保証

従業員に入社させる際、我が社では、社員から、「会社に損害を与えた場合には損害賠償責任を負担する。」という念書を作成し、両親を連帯保証人として署名してもらっています。
今般、入社歴20年の社員が身勝手な判断をして会社に大損害を与えたので、両親に責任追及しようと思っていますが、問題は無いでしょうか?

1 結論
連帯保証債務につき両親の同意がない限り、両親からは払ってもらえないことになります。但し、上記念書を3年ごとに取り付けている場合には、金額は制限されますが、払ってもらえます。

 

2 理由
身元保証法では、
身元保証の存続期間の上限を5年に定めています。
しかも、きちんと5年間と定めておかないと3年に制限されてしまいます。

 

本件では、入社歴20年の社員ということになりますから、
上限を5年と定めていても、保証責任を追及できないということになります。

 

したがって、社員からは、3年ごと乃至5年ごとに念書を差入させることが必要となります。

 

なお、上記のような期間の問題がクリアされたとしても、
損害額の一部しか請求できない場合もありますので、
予め理解しておく必要があります(一切の事情を考慮して裁判所が決めます。)。

搭乗者傷害条項で救済される事例(新しい最高裁判決)

(事案)
Aは、平成14年12月18日午後9時50分ころ、
高速道路で、普通乗用自動車を運転中、運転操作を誤って、
車両を中央分離帯のガードレールに衝突させるなどし、
車両は、走行不能になり、走行車線と追越車線とにまたがった状態で停止した。
その付近には街路灯等がなく、暗かった。
Aは、すぐに本件車両を降り、小走りで走行車線を横切って道路左側の路肩付近に避難したが、
その直後に本件車両と道路左側の路肩との間を通過した後続の大型貨物自動車に接触、
衝突されて転倒し、
更に同車の後方から走行してきた大型貨物自動車によりれき過されて死亡した。
運転手の遺族が、保険会社に対し、自家用自動車保険契約の搭乗者傷害条項に基づいて死亡保険金の支払を請求した。

 

(判決の要旨)
以上の事案につき、最高裁(平成19年5月29日 判例時報1989号131頁)は、
搭乗者傷害条項に基づく保険金支払の請求を認めました。
要するに、車に乗っていることが必須の条件ではなく、運行起因事故と死亡との間とに相当因果関係がある場合は、広く被保険者を保護するべきという結論です。
事故後に降りた状況が重要ということになります。

 

(判決)
本件搭乗者傷害条項によれば、保険金は、「被保険自動車の正規の乗車装置等に搭乗中の者」(被保険者)が、「被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故(運行起因事故)により身体に傷害を被り、その直接の結果として死亡した場合」に支払われることになっている。
Aは、被保険自動車である本件車両を運転中、運転操作を誤り本件自損事故を起こしたというのであるから、Aは被保険者に、本件自損事故は運行起因事故にそれぞれ該当する。
そして、①Aは、本件自損事故により、本件車両内にとどまっていれば後続車の衝突等により身体の損傷を受けかねない切迫した危険にさらされ、その危険を避けるために車外に避難せざるを得ない状況に置かれたこと、②Aの避難行動は、避難経路も含めて上記危険にさらされた者の行動として極めて自然なものであったと認められること、③上記れき過が本件自損事故と時間的にも場所的にも近接して生じていることから判断しても、Aにおいて上記避難行動とは異なる行動を採ることを期待することはできなかった。そうすると、運行起因事故である本件自損事故とAのれき過による死亡との間には相当因果関係があると認められ、Aは運行起因事故である本件自損事故により負傷し、死亡したものと解するのが相当である。

新判例 飲酒免責

新判例 飲酒免責

弁護士 片岡憲明が寺澤綜合法律事務所に所属していた時から担当していた事件で1審勝訴の判決を頂きましたので、ご報告致します。

 

名古屋地裁平成20年2月22日判決(控訴中)
自動車保険ジャーナル1745号p13

 

 

① 原告が環状線で被保険車両を運転・走行中、側壁に衝突の単独事故を起こし保険金請求する事案につき、警察が飲酒運転としなかったのは、飲酒検知をしなかったからで、積載車の手配を依頼され、原告を病院へも送った業者は原告が「相当程度に酔った様子」と感じ、医師も原告に酒臭を感じ、打撲はないのに「うつむいてぐったりした様子」を認めている等から、原告の「酒によった状態が居眠り運転の原因となっている」とし、車両保険金請求には酒酔い免責を適用した。

 
② 文書、調査員への飲酒の事実の不実申告は、調査等の妨げとなり、その妨げを原告が「認識していたことを要する」が、原告にはこの点が「認められない」等から対物賠償保険金の支払いを認容した。

 

 

①については、警察が臨場したにもかかわらず、原告が検挙されなかった点は当方に不利な事実と主張されましたが、その他の間接事実から当方の勝訴となりました。

 
②については、裁判官のバランス感覚によるものと思います。

 

 

なお、平成20年8月22日の控訴審判決でも、①について勝訴判決を頂きました。

新判例 被害者側の過失

A運転の自動二輪車とパトカーとが衝突し、
自動二輪車に同乗していたBが死亡した交通事故につき、
Bの相続人である被上告人らが、パトカーの運行供用者である上告人に対し、
自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償を請求する事案。
ちなみにABは暴走族の仲間同士です。

以上のような事案につき、

 

最高裁(平成20年7月4日判決)は、
Bの損害賠償請求につき、Aの過失を斟酌するという
判断を下しました。

いわゆる被害者側の過失の法理
身分上生活関係上一体(幼児の監督者である父母等)」の場合と
財布が一つ(夫婦等)」の場合以外に
認めてきましたが、
上記のような類型も加えたものといえます。

 

判例をチェック

 

(抜粋)
以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば,
本件運転行為は,BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず,
上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。
したがって,上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては,
公平の見地に照らし,
本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解すべきである。

保険会社の調査に対する協力義務

保険契約者が、保険会社から依頼した調査員に対して、回答をはぐらかしたり、嘘をついたりしています。どのように対処すればよいのでしょうか。

保険事故発生の偶然性の立証責任は、最高裁判決により、保険会社側にあることが明らかになりました(盗難については微妙ですが。)。
したがって、保険会社による調査は今まで以上に厳格に行う必要があります。
にもかかわらず、契約者が調査に非協力的では、保険会社は打つ手がありません。
近時、名古屋高裁で、調査協力義務違反による支払免責を認めた裁判例が下されました。したがって、保険会社としては、契約者に対し、調査への協力を誠実に依頼し、それでも拒絶された場合は、拒絶事実を記録し、弁護士にご相談されると良いと思います。

 

参考判例
自保ジャーナル(平成20年3月13日)

 
事実の要旨
甲保険会社と自動車保険契約しているXは、平成17年5月13日午後6時59分ころ、
三重県下で路外逸脱し、海中に転落して新車価額保険金400万円を求めて訴えを
提起した。
1審裁判所は、305万円の保険金支払いを認容した。
甲保険会社控訴の2審は、Xは「約款の一般条項14条(9項)に違反する」として、
1審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。

 
判旨の抜粋
ウ Xの上記12)アの説明内容は、上記鑑定結果と大きく食い違っている。
即ち、
①本件車両の速度の点では、
クリープ走行程度(速度はほとんど出ていない。)なのか、
時速約19km/時間程度なのか、
②進行方向の点では、運河に向かって左ヘハンドルを切って進行したのか
(この場合、運河への落下は運転席側からとなる。)、
本件車両の前部を北に向け、護岸道路を左に逸脱して運河に転落したのか
(この場合、同運河への転落は助手席側からとなる。)
の点において、大きく食い違うことになる。
③ さらに、本件車両は、横転しながら転落したものと推測されるものの、
Xは、この特徴的な転落状況を窺わせるような説明は何もしていない。
このように本件車両の運転(切り返し操作)中に本件事故に至ったのであるならば、
速度、進行方向などの基本的な客観的状況と一致しない説明がなされるということは
明らかに不自然であり、
転落態様について横転という特徴的な事柄に関して説明が欠けるということも
通常考えがたいところである。
したがつて、Xの上記(2アの説明内容も、
記憶どおりに正しく説明されていないものと認められ、
これは甲において、本件事故が保険事故であるか否か、
支払拒絶事由(Xの故意による事故)があるか否か検討するための
重要な事故態様に関するものであったということができる。
(6)以上(3)ないし(5)で検討のとおり、
Xの本件事故の態様、本件事故後の経緯や携帯電話に関する説明は、
いずれも甲において本件事故が
保険事故であるか否か、支払拒絶事由があるか否か検討するための
重要な事項に関する説明であるところ、
その説明内容は、いずれもXの記憶のとおり正しくなされてはいないと認められる。
このようなXの行為は、
本件保険契約約款の一般条項14条(9)に違反するものであって、
同条項15条1項により保険金の支払拒絶事由にあたるものと認められる。

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