知っておきたい時効の落とし穴
時効つながりでの相談ですが、当社が長年資材置き場として無償で借りて占有している隣地について、長期間使っていれば時効によって当社の所有物にできると聞きましたが、本当でしょうか。
ご回答
「時効」という言葉は耳慣れたものですが、その正確な仕組みは意外と知られていないです。今回は、債権の消滅時効と不動産の取得時効について、実務上間違いやすいポイントを解説します。
1 「催告」し続けても時効は止まらない
まず、未払金の請求についてですが、結論から申し上げますと、単に督促(催告)を繰り返しているだけでは、時効の進行を完全に止めることはできません。
民法上、裁判外の督促である「催告」には、時効の完成を猶予する効果がありますが、その期間は「催告があった時から6ヶ月」に限られます(民法150条1項)。
さらに重要なのは、猶予期間(6ヶ月)内に再度催告をしても、重ねて猶予の効果は生じない(民法150条2項)という点です。
例えば、5年の時効ギリギリに催告をして、時効完成を猶予し、猶予の6ヶ月内に再度催告しても猶予にならず時効は完成します。よって、督促状を送り続けても、裁判上の請求(訴訟の提起)を行わなければ、時効は完成してしまいます。いつまでも「話し合い」や「任意の督促」で引き延ばせるわけではないことに注意が必要です。
2 取得時効を阻む「他主占有」の壁
次に、隣地の所有権取得についてです。他人の土地であっても、一定期間占有を継続すれば時効によって所有権を取得できる「取得時効」という制度があります。しかし、これには「所有の意思」を持って占有していること(自主占有)が絶対条件となります。
もし、その土地を「借りている」という認識で占有していたり、賃料を支払っていたりする場合、それは「他主占有」と呼ばれます。他主占有の場合、たとえ何十年占有し続けたとしても、所有権の取得時効が完成することはありません。
占有を開始した原因等の客観的な事情によって他主占有かどうか判断されます。
3 時効を阻止・利用するための実務的対応
消滅時効を確実に阻止するためには、相手方に「承認(債務の存在を認めること)」をさせるか、裁判上の手続きをとる必要があります。一部でも支払いを受けたり、支払猶予の書面をもらったりすれば「承認」となり、時効はリセット(更新)されます。
一方で、取得時効を主張したい場合は、その占有が「所有の意思」に基づいたものである(自主占有)ことを証明する客観的な資料(固定資産税の支払いや境界の管理状況など)が必要となります。
4 適切な解決のために
時効の問題は、時間の経過とともに刻一刻と状況が変化します。「まだ大丈夫だろう」という思い込みが、法的権利を失わせる最大の原因となります。
特に債権回収においては、内容証明郵便を送るだけで満足せず、その後の法的手段への移行タイミングを逸しないことが肝要です。また、不動産の占有関係についても、代替わりなどで実態がわからなくなる前に、現在の権利関係を調査しておくべきです。
時効が完成してしまう前に、一度専門家である弁護士に現在の状況を相談し、適切な法的措置を講じることをお勧めいたします。
月刊東海財界2026年5月号掲載


