名古屋・大垣の弁護士事務所。離婚、相続・遺言、不当解雇、債務整理、契約書作成、刑事事件、取引紛争、渉外法務などの法律相談。

片岡法律事務所
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名古屋の弁護士Q&A

カルテを医院に要求したところ、「出せない」と言われました。どうしたらいいですか?

以前から内科に通院していましたが、慢性胃炎ということで薬をもらって通院を続けていました。

しかし、一向に良くならず、現在の状況や、今後の治療についても説明がありませんでした。他の病院で受診したところ、ステージ3の胃癌と診断され、発見遅れの医療ミスを疑い、弁護士に相談しました。

その弁護士から、これまで掛かっていた医院のカルテをもらって来て欲しい、と言われ、医院に要求したところ、「出せない」と言われました。どうしたらいいですか。

ご回答
私は、うつ病を発症して退職に追い込まれた案件を担当したことがありますが、うつ病になった原因が、勤務先上司のパワハラであることを立証するために、カルテ等の診療記録が必要となりました。
そこで、依頼者に頼んで、カルテ等の開示申請をしてもらったところ、断られたため、私の方から病院へ連絡して、開示義務があることの説明をしてコピーしてもらったことがあります。

最近でも、患者さんが病院にカルテ等をコピーしてほしい、と申請したら、弁護士から開示申請書面を出して欲しいと言われました。やむを得ず開示申請書面を送ると、病院の事務長から、コピーするのに1枚100円かかる、と言われました。高いとは思いましたが、了解したところ、今度は、「コピーを取っている手間が大変なので、原本を送るから、そちらでコピーしてくれ」と言われて、原本を送ってきた病院があり、驚きました。

私の顧問先医院でも、このような開示請求への対応を取り決めた規定を作成したことがあります。

そもそも、医療機関は個人情報保護法25条1項によって、患者本人からの診療記録の開示請求に応じる義務があります。この規定に違反した場合、厚生労働大臣から開示の勧告・命令を受けることがあり、その命令に違反した場合、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる場合があります。

平成15年9月12日付の各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知においても、医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない、とされています。
また、「第2版 診療情報の提供に関する指針」(日本医師会雑誌 第128巻・第10号 平成14年11月15日発行[付録])によれば、「医師および医療施設の管理者は、患者が自己の診療録、その他の診療記録等の閲覧、謄写を求めた場合には、原則としてこれに応ずるものとする。」と規定されています。

ここまで説明しても開示に応じない場合、各県の医師会の相談窓口で、このような状況を説明すれば、対応してもらえると思います。
さらに、裁判例としても、診療契約に付随する義務として、診療記録等の開示義務を認めたものがあります(東京地方裁判所 平成23年1月27日 判決)。また、上記義務に違反したことを理由に慰謝料請求を認めた判決もあります。

月刊東海財界2020年8月号掲載

老人介護施設で事故が起こったときに、どう対応すればよいでしょうか?

私は介護施設を経営しています。

老人介護施設で、甲さん(78歳)が車椅子に乗ったまま昼食中、食卓テーブルから落ちた物を拾おうとして、立ち上がろうとしたとき、車椅子のストッパーがされていなくて、車椅子が動いたため、転倒し腕と大腿骨を骨折されました。

甲さんのご家族から、かなりの剣幕で、事情を説明して欲しいと申し入れしてきました。
今後、甲さんのご家族にはどのような対応をしていったらいいでしょうか。

ご回答
介護施設として、要介護3以上の方を対象とする特別養護老人ホームと、リハビリを中心とした介護老人保健施設などがあります。

私の顧問先にも介護施設を経営されている法人がありますが、いろいろな問題が発生します。内部でしっかりした介護マニュアル、介護職員らの職務指針や詳細な作業手順を作成して、定期的に研修など重ねています。また事故が発生しかけた際には、ヒヤリ・ハットの事例を記載させ、その情報を皆で共有し、事故の発生防止に努めています。
ここまでしていても、介護施設ではよく事故が発生しています。

ところで、事故が発生した時は、まず加入している賠償責任保険の保険会社にすぐに報告しておく必要があります。
また、介護施設は責任追及を受けることを恐れ、被害者側への説明を十分しないことがありますが、できるだけ丁寧に対応すべきだと思います。もっとも、説明を尽くしたのに、家族が過激な行動に出たときは、それ以上は対応しなくても良いです。ひどい場合は警察の援助を要請したり、弁護士などに対応を委ねてもいいです。

甲さんのような転倒・転落事故は特に多いと思われます。
事故が起きたときには、家族からは、施設側に事故時の状況説明を求められ、担当スタッフ、施設長らがこれにあたりますが、十分内部で状況を把握して説明すべき内容を確定しておくべきで、それぞれがまちまちのことを話すと、不信を招くので注意して下さい。この際は、家族側は録音を録っているので、そのことを意識して話して下さい。念のためこちら側も録音した方が良いです。

介護事業者は、介護サービスの提供を受ける者またはその家族との間で、介護契約を締結しており、被介護者の心身の状態を的確に把握し、施設利用に伴う転倒等の事故を防止する安全配慮義務を負っています。
このような形での転倒はかなり突発的であった可能性がありますが、甲さんの過去の転倒事故の有無、身体の状況、歩行の様子などから、甲さんがこのような動きをする危険性があり、このことを介護事業者が認識しえた場合には、落としても自分で拾わないように、口頭で注意するとか、近くで見守るとかする、事故発生回避義務があったといえそうで、損害賠償義務があるかもしれません。

なお、介護事業者の過失が認められても、過失相殺により、介護事業者の損害賠償金額が一定程度削られることが多いです。

月刊東海財界2020年5月号掲載

美容エステを経営していますが、架空予約されて困っています

私は、美容エステを経営しています。テレビで取り上げられたため、1日のお客様も約100名こられます。ネットでの予約システムを採用し、朝9時から夜8時の間で、1時間刻みで同時刻に10名ずつ予約申し込みを受付しています。
ところが、約5ヶ月前、予約したのに来店しないことが1週間に10件あり、架空の名前、電話番号でした。
その後、約2ヶ月前から連日のように、合計150件の架空予約がありました。

別々の人がやったと思いますが、5ヶ月前にはお客さんのAと料金で激しい口論となったことがあり、2ヶ月前には従業員Bを解雇したので、AとBが5ヶ月前と2ヶ月前のそれぞれの架空予約の犯人だと思っています。今後の対策を教えて下さい。

ご回答
このような架空予約をされると、その分、他のお客様の予約が入れられないので、経済的損失が発生しますし、経営者の方も、他の従業員も不安になります。

この場合、まず予約システムを契約した会社に相談して、予約者のIPアドレス(ルーターやパソコンに設定されている、インターネット上の住所のようなもの)を突き止めることが出発点になります。
IPアドレスは、接続業者にログが残っていると、使用者が特定できますが、契約者情報(名前、住所等)はプロバイダが持っている個人情報なので、簡単には開示しません。ただ、本件は犯罪になり得るので、開示請求に応じる可能性があります。この段階で警察に相談された方がいいでしょう。
警察が迅速に対応しない可能性があるので、「とても困っているし、被害も大きい」と、訴えてみて下さい。

ところで本件は、偽計業務妨害罪にあたる可能性があります。偽計業務妨害罪とは、「虚偽の風説を流したり偽計を用いたりして、人の業務を妨害する罪(刑法233条)」で、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。

具体的に説明すると、①「虚偽の風説」(真実とは異なる情報)を、②「流布」することが必要です。「流布」とは、不特定多数の人に対し、情報を広めることです。③「偽計を用いる」の偽計とは、人を欺いたり、人の錯誤や不知に乗じることで、④「他人の」、⑤「業務を妨害」することが構成要件となります。  
 
事業が倒産寸前だ、販売商品が有害物質を含んでいると、虚偽の書き込みをネットに流すことは該当するでしょう。本件のような前例は少ないと思いますが、構成要件を吟味すると、偽計業務妨害にあたるか微妙ですが、A、Bがいずれも犯人だとすると、B は、かなりの損害を与えているので該当しそうです。

しかしAは悪質性が低く、回数も少ないので悪戯でやっているように思います。実は軽犯罪法の中に、「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」との規程があり、これに違反しそうです。刑罰も拘留又は科料とされています(科料は1000円以上1万円未満とされ、罰金より軽い刑です)。
本件ではAが軽犯罪法に違反、Bが偽計業務妨害罪にあたると思われます。

月刊東海財界2019年11月号掲載

国際取引(中国との売買契約の注意点)

当社は中国の杭州にある会社に精密機械を販売しましたが、代金を払ってもらえません。他方、上海の会社から、部品を購入していますが、不良品だったため代金を払っていませんが、相手方からは売買代金の支払請求をされています。 今後、裁判を起こしたり、起こされるリスクがあります。対応にあたり、注意すべき点を教えてください。

ご回答
グローバル化した昨今、外国企業との間で、製品や部品などを売買することは、中小企業であっても、珍しくなくなりました。
日本と中国との間の取引は、日本国内の企業同士の取引とかなり相違点があります。思わぬ落とし穴があったりしますので、十分な注意と検討が必要です。

私の事務所でも、中国との海外取引について相談を受け、あるいは中国の弁護士に対応を依頼してきました。
今回の事例は、海外取引で起こりやすい典型的な紛争です。
紛争解決において注意点が2つあります。

1つ目は、日本の裁判所で訴訟ができるか(裁判管轄)、2つ目は、どこの国の法律が適用されるか(準拠法)、です。

日本の裁判所で訴訟ができないならば、中国で訴訟を提起するほかありません。また、日本で裁判ができるとしても、どこの国の法律が適用されるか、も重要な影響があります。有利不利が変わるからです。日本で裁判するのに日本法を適用しないことがあるのか、と意外に思われるかもしれませんが、日本の裁判所で外国の法律が適用されて判決が下される場合もあります。

今回の中国との取引を前提に説明します。

まず、このような国際取引をする時は、売買契約書を作成することが絶対必要です。裁判管轄や準拠法についても、契約書に盛りこむのが一般的です。

皆さんはおそらく、売買契約書に、管轄は名古屋地方裁判所にして、準拠法は日本法にする、と書けば問題がないと思われるでしょうが、ことは簡単ではありません。
杭州の会社への売買代金請求の訴訟を、名古屋地方裁判所に起こしたらどうなるでしょうか。訴状等の送達に時間は掛かりますが、希望通りの判決はもらえますが、この判決で中国の会社の資産を強制執行することはできません。なぜなら、日本の判決は中国において効力が認められていないからです。日本と中国では、相互に判決の承認・執行の要件とされる『相互の保証』が取り交わされていないからです。そのため売買契約書には、紛争解決のために、中国国際経済貿易仲裁委員会○○支部の仲裁によるとし、準拠法は日本法とする(中国法を選択することもあります)、との条項にしています。中国の裁判所は信頼性に不安があるからです。

反対に、中国から買った製品の代金を支払わなかった場合、裁判管轄は名古屋地方裁判所にして、準拠法は日本法にすることは、有利と考えられます。なお、中国企業から中国の裁判所へ訴訟が起こされ判決が出ても、日本では無効ですから、強制執行されません。

月刊東海財界2019年7月号掲載

デザインの委託をする際の注意点

我が社では広報誌の制作をシャチホコPRという会社に委託していましたが,この度,経費の見直しで別会社に広報誌の制作を委託することにしました。

そうしたところ,シャチホコPRから,「当社が作ったロゴやデザインを今後も継続使用するならば,フィーを払ってもらわないといけない。」という要求がありました。

我が社としては金を払っている以上,ロゴやデザインを継続使用して何が悪いんだと思いますが,相手方の言い分はおかしくないでしょうか。

1 ご回答
ロゴやデザインにはシャチホコPRの著作権が成立しています。
したがって,貴社がロゴやデザインについて著作権の移転や継続使用について取り決めていない場合,ロゴやデザインの使用は禁止され,損害賠償請求を受けるおそれがあります。

 

2 理由
デザイン等を外部に委託した場合,その成果物に関するあらゆる権利を取得すると誤解しがちですが,著作権はきちんとそれが移転することを定めておかないと当然には委託者に移転しません。
したがって,契約書等で,「本件成果物に関する一切の著作権は委託者に帰属する。」などの条項を入れておく必要があります。
上記のように委託先を変更する場合,委託先から嫌がらせのように上記のようなクレームを提出されることがあるため,是非とも面倒がらずに契約書を取り交わしておくべきです。

理由なき降格処分を争う

私は運送会社の課長職でしたが,職場の上司に対し,その怠慢を指摘して注意したところ,特に理由も無く降格され,一般ドライバーとさせられてしまいました。降格の結果,給料も以前は80万円あったのが40万円と大幅に減額されましたか。

私が何らかの懲戒処分を受けた事実も無いのに,このような仕打ちを受けるのは納得できません。何かなりませんでしょうか?

1 ご回答
ご質問の内容だと,懲戒処分を下されたわけでは無いようですね。
そうすると,この件は,人事上の措置として役職や職位を引き下げられた結果,給与が大幅減額したということでしょうか。
基本的に人事権行使は,人事権の濫用とならないことが必要です。
人事権濫用かどうかは,①使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度,②能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度,③労働者の受ける不利益の性質及びその程度,④当該企業体における昇進・降格の運用状況,などの諸事情を総合考慮して判断されます。
したがって,貴殿の場合についても,①特に使用者側で必要性が無いのに,②特に貴殿の能力の適性と関係無く,③大幅な給与の減額を伴う降格がされ,④特に貴殿のような降格の例が他に例を見ないものであったならば,人事権の濫用として,無効になる可能性があります。

 

2 参考判例
★医療法人財団東京厚生会(大森記念病院)事件(降格)(東京地裁平成9年11月18日判決)
使用者に委ねられた裁量判断を逸脱しているか否かを判断するにあたっては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度、当該企業体における昇進・降格の運用状況等の事情を総合考慮すべきである。前記のとおり、婦長と平看護婦は待遇面では役付手当5万円が付くか否かにしか違いがないうえに、本件降格が予定表という重要書類の紛失を理由としていることなどに照らすと、Yが降格を行うとの判断をしたことは一応理解できなくはないけれども、一方、〔1〕本件降格が実施された直後に、Xが予定表を発見していることに照らすと、YがXに対し、紛失した予定表を徹底的に探すように命じたのか否かにつき疑問も存し、予定表の発見が遅れたことについてXのみを責めることもできないこと、〔2〕予定表の紛失は一過性のものであり、Xの管理職としての能力・適性を全く否定するものとは断じ難いこと、〔3〕近時、Yにおいて降格は全く行われておらず、また、〔4〕Xは婦長就任の含みでYに採用された経緯が存すること、〔5〕勤務表紛失によってYに具体的な損害は全く発生していないこと等の事情も認められるのであって、以上の諸事情を総合考慮すると、本件においては、Yにおいて、Xを婦長から平看護婦に2段階降格しなければならないほどの業務上の必要性があるとはいえず、結局、本件降格はその裁量判断を逸脱したものといわざるを得ない。」

事故で車が大破してしまった場合の修理費

先日,追突事故を起こされました。私の車は大破して修理費は200万円くらいかかると言われました。

しかし,保険会社の担当者からは,私の車の市場価格が150万円であるから,賠償金は,150万円が限度と言われました。

私としては,愛着がある車ですから,修理代を払ってもらいたいと思っているのですが,払ってもらえないのでしょうか。

1 ご回答
ご相談の事案で,本当に車の市場価格が150万円くらいだとすると,いわゆる「経済的全損」に該当し,市場価格が賠償金の限度となりますので,200万円の修理代を支払ってもらうことはできません。
但し,廃車や買換えのための費用の一部は追加で支払ってもらえる可能性があります。

 

2 参考判例
福岡高裁平成2年9月25日判決では,修理費>(交換価格-スクラップ価格)の場合,車両損害の損害賠償としては,(交換価格-スクラップ価格)が賠償金の限度となる旨の判示がされています。
交換価格というのは,市場価格と同じ意味です。スクラップ価格というのは,廃車したときの廃棄物の買取価格(鋼鉄なので一定の金額で売れます。)だとご理解下さい。
したがって,修理費が高額であっても,市場価格が限度になります。
高額の修理代が発生する場合は,買い換えた方が経済的に合理的な選択なので,裁判所はこのような結論をとっているのだと思われます。

無理に提出させられた退職届を撤回したい

私は,従業員20名程度のA社に5年間勤務していました。
私は妻子ある同僚男性と交際し,それが社内で露見しました。
部長からは,私に対し,私を懲戒解雇するつもりであるが,すぐ退職届を提出すれば,退職金が出ると思う,と言われたので退職届を提出してしまいました。
同僚男性は特に解雇されることなくA社に勤務しており,なぜ私だけが,という思いです。
会社に対して退職届の撤回を請求したいのですが,可能でしょうか。

1 ご回答
退職の意思表示について強迫取消(民法96条1項)が認められ,撤回が請求できる可能性が高いと考えられます。
一般に,退職届を提出してしまうと,特段の事情が無い限り,撤回は認められないというのが実情です。
しかし,ご相談の事案だと,懲戒解雇が認められる余地が殆ど無いと考えられるのに,退職届を提出しないと重大な不利益が発生すると突きつけ,精神的な威迫を与えた上で,退職届を提出させたと言わざるを得ません。
よって,民法96条1項の強迫が認められる可能性は高いものと言えます。

 

2 参考判例
ちょっと古いですが,以下のような参考判例があります。
広島高裁松江支部昭和48年10月26日判決
「以上の認定によれば、控訴会社がその主張するようなバスガイドの職種の特殊性から被訴人につき将来風紀上の問題を起すおそれがあり、その適格性に疑問があると判断したことには相応の理由があるにせよ、前判示のとおり所定の懲戒解雇事由に該当する事実がないのに前記小山所長らが被控訴人に対し明らかに懲戒解雇に付すべき不当な行状があるとして退職願を提出するよう要求したことは、被控訴人が見習者であつたことを考慮にいれても、違法な強迫行為に当るものというべきであり、違法性がない旨の控訴会社の主張は採用できない。」

タイムカードが無くても残業代は請求できますか?

【タイムカードが無い場合の残業時間】
私は勤務先を1カ月前に辞めましたが,その勤務先は今までどれだけ長時間残業しても残業代を支払ってくれませんでした。
残業をすれば残業代を請求できるということは知っているのですが,その勤務先はタイムカードなどがありませんでした。
こういったタイムカードが無い場合でも残業代請求はできるのでしょうか。

【ご回答】
1 タイムカードがあると良いが無くても請求自体は可能
残業代は,残業時間を把握しないと請求できませんので,タイムカードなどで残業時間を把握する必要があります。
しかし,タイムカードは残業時間を把握するための1つの手段に過ぎませんから,別にタイムカード以外の方法で残業時間を把握できるならば,それで残業時間を認定することは可能です。
たとえば,毎日,業務日報・報告書を提出していたのであれば,当該日報に何時から何時まで労働したかが記載されている筈です。
また,パソコンのログやメールを調べれば,特定の時間まで働いていたことが証明できると思います。
これら客観的な証拠以外でも,日記・メモなどの個人的な証拠でも証拠価値が完全に否定されるわけではありません。
なお,元同僚の労働時間に関する陳述などがとれれば,ある程度残業時間を特定することも可能です。当事務所で取り扱った事例では,元同僚が依頼者の残業時間が毎日最低でも2時間あったことを陳述してくださったおかげで,毎日2時間分の残業時間が裁判所によって認定された例がありました。

 

2 タイムカード以上の残業時間があれば別途請求は可能
以上の通り,タイムカードは残業時間を把握するための1つの方法に過ぎません。
よって,タイムカードで把握されていない残業時間があれば,この時間について残業代が請求できるのは当然のことです。
どのような資料があるのか,具体的にお聴きして,適切な資料を探し,保全する必要があります。

又貸し物件において転貸人が破産した場合の対応

【転貸人が破産した場合の対応】
弊社は,ある建物の又貸しを受けています。
賃貸人(A)→賃借人=転貸人(B)→弊社(どちら?)
 (破産管財人)
先般,転貸人(B)が破産し,その破産管財人から賃料を支払うよう請求がありました。
その後,賃貸人(A)の弁護士から,弊社に対し,民法613条に基づいて賃料を支払うように請求がありました。
弊社としましては,どちらに支払って良いか分かりません。どうしたら良いでしょうか?

【ご回答】
1 東京地裁平成14年12月27日判決によると,「 ア まず、民法613条1項は、転借人が賃貸人に対して直接に義務を負う旨を定めただけで、転貸人に対する義務に優先しあるいは先んじて賃貸人に対して義務を負う旨定めているものではないし、民法364条のように債権の優先・劣後の関係が生じる場合に準用される民法467条2項の規定も準用されていないから、文理上、賃貸人の転借人に対する賃料請求が転貸人の転借人に対する賃料請求に優先するものと解すことはできない。」と判示しています。
上記判旨をふまえれば,賃貸人Aからの請求があった後でも,貴社が転貸人B(破産管財人)に支払ってしまえば賃料支払義務は消滅すると考えられます。
もっとも,上記判旨はあくまで東京地裁という下級審が下した判断であり,他に判決も見当たらないため,確定的な裁判例と言うことまではできません(リスクは否定できません。)。

 
2 以上より,貴社としては,ABどちらに支払っても良いという結論になりますが,今後も当該建物を借り続けたいならば,賃貸人Aと交渉し,賃貸人Aに賃料を払うべきでしょう。
というのも,賃貸人Aとしては,賃借人(転貸人)Bから賃料を得られないため,契約が解除されてしまうことは明らかであって,賃貸人からの請求を拒絶することで,貴社が確実に当該物件から退去しなければならない結論になるからです。

 
3 逆に,もう建物を明け渡すというならば,転貸人B(管財人)に対して転借料を支払い,同時に寄託請求(破産法70条)を行うのが合理的だと思われます。

派遣社員と労災事故

【派遣と労災事故】
当社は,派遣会社から派遣社員を受け入れて工場の仕事を担当してもらっていますが,今般,労災事故が発生し,派遣社員が大怪我をしてしまいました。
当社は何らかの責任を負うのでしょうか。負うとして派遣会社に応分の負担をしていただくことは可能でしょうか。

【ご回答】
1 派遣先も責任を負います
まず,派遣社員の方が労災事故に遭ったということですが,派遣社員の一方的な過失で事故が発生したのでしょうか。もし,そうであるならば,貴社が責任を負うことはありません。
しかし,貴社の設備自体に瑕疵があったり,管理体制になにがしかの不備があった場合は,当該派遣社員に対する安全配慮義務違反があったものとして損害賠償責任は免れないと思われます(ただし,派遣社員に過失があったような場合は過失相殺により損害賠償額が減額されることになると思います。)。
2 派遣先と派遣元双方で責任を負う場合があります
次に,派遣先と派遣元があるとき,派遣元に応分の負担を求められるかですが,難しい問題だとは思いますが,一定の負担を要求できる場合があると考えられます。
たとえば,派遣先が派遣元に危険な職場であることを説明していたのに,派遣元が派遣社員に十分な教育や説明をしておらず,それが労災事故の発生原因となったような場合には,当然に派遣元に対して負担を要求できると考えられます。
その負担割合については,判例がほとんどないため(おそらく派遣先と派遣元で協議して決定するため,訴訟にならないものと考えられます。),不明であり,また,ケースバイケースでしょうが,派遣先の方がより重い責任を負うことが多いであろうと考えられます。派遣先の方が危険を管理できるからです。
ご相談のケースは,詳細が不明ですので,明確な回答ができません。両社で協議して負担割合を決定されてはいかがでしょうか。

債権回収には仮差押えが効果を発揮します

【仮差押えの効用】
ある会社に重機を貸しましたが,レンタル料(約100万円)を払ってくれません。
現在,その会社にはショベルカー(200万円くらいの価値)があるのですが,その他にめぼしい財産はありません。ショベルカーを売って債権者への返済にまわすつもりだが,私の会社には払う金が無いと言っています。
どうしたらいいでしょうか。

1 ご回答
ショベルカーが売られる前に,そのショベルカーを仮差押えすることをおすすめします。
仮差押えをすることで,早期に債権回収を図ることが可能になるかもしれません。

 

2 補足説明
本件の場合,貴社はレンタル料について相手方会社に対する訴訟を提起し,判決をもらった後で,ショベルカーを差し押さえるというのが本来の手続です。
しかし,判決をもらうまでには早くとも3か月,遅いと1年程度かかる場合があり,その間にショベルカーが売却されてしまう可能性があります。
そのため,民事保全法では,判決までの間,ショベルカーのような動産の処分を禁じたり,場合によっては動産を執行官が取り上げて保管する,といったことを可能としています。
要するに,仮差押えを利用すれば,とりあえず動産(ショベルカー)が売却されなくて済む訳です。
また,債務者によっては,仮差押えをされたままだと仮差押えをされた物が売却できないから,仮差押えを何とか解除してもらおうと,仮差押えをした債権者に対して優先的に弁済をすることもあります。
このように,仮差押えは債権者にとって大きなメリットがあります。

 

3 注意点
このように,仮差押えはメリットが大きいですが,他方で注意すべき点があります。

①紛争に決着がつくまで担保金を積まなくてはならない,

②ある程度の証拠は迅速に用意する必要がある,

③常に裁判を回避できるわけではない,

といった点です。
仮差押えを行う場合,債務者にとって不利益が生じるため,債権者は担保金を積まなければなりません。たとえば,本件のような場合,60万円ほど担保金を積まなければなりません。とられてしまうわけではありませんが,裁判を行うなど,①紛争に決着がつくまで担保金は取り戻せなくなります。
次に,仮差押えは緊急で行うのですが,②時間が無いのに結構たくさんの証拠の提出を求められる場合があります。迅速に対応する必要があります。
さらに,あくまで仮の差押えですので,③最終的に目的物をお金に換えるためには裁判が不可避です。
以上のメリットデメリットを考慮して,仮差押えを行うか,決めるのです。

未払賃金と会社役員の責任について

【未払賃金と会社役員の責任について】
私が経営しているA社は2名の従業員がいます。何とか給料は払えていましたが,経営不振で1名を解雇することになりました。解雇した1名から,先日残業代を払えという請求がありました。
会社は赤字続きで到底残業代を支払える状態ではないため,支払えない旨回答しようと思いますが,私個人の責任は追及される可能性は無いでしょうか。

1 結論
倒産の危機にあり割増賃金を支払うことが困難な状況にあったなど特別な事情がある場合は責任追及されませんが,そうでない場合は,責任追及される可能性があるかもしれません。
あなたのケースでは,赤字続きであったということですから,特別な事情があったと言え,責任追及はされないだろうと思われます。

 

2 判例
大阪地裁平成21年1月15日判決は,取締役及び監査役の善管注意義務ないし忠実義務は,会社の使用者としての立場から遵守されるべき労働基準法上の履行に関する任務懈怠も包含すると解されるから,取締役及び監査役は,会社に労働基準法37条を遵守させ,被用者に対して割増賃金を支払わせる義務を負っているとして,被告らに任務懈怠が認められるとして,請求を一部認容した事例です。
この判例によると,倒産の危機にあり割増賃金を支払うことが困難な状況にあったなど特別な事情に無い限りは,時間外労働の割増賃金を支払わなかった会社の役員が個人責任を追及されるおそれがあります。
この判例の内容は確立した裁判例になっているとは言い難い(これと反する判例もあります。)ですので,今後も必ず踏襲されるとは限りませんが,注意はしておいた方が良いです。
残業代がそもそも発生しないように,就業規則上の工夫や給与の支払方法の工夫をした方が良いと考えます。

会社法改正の状況の説明その2

会社法改正の状況についての説明 その2
(その1からの続き)
1 要綱案の目次
第1部 企業統治の在り方
第1 取締役会の監督機能
第2 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定←「今回はここから」
第3 資金調達の場面における企業統治の在り方
第2部 親子会社に関する規律
第1 親会社株主の保護等
第2 キャッシュ・アウト
第3 組織再編における株式買取請求等
第4 組織再編等の差止請求
第5 会社分割等における債権者の保護
第3部 その他
第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求
第2 株主名簿等の閲覧等の請求の拒絶事由
第3 その他

 

2 解説
第1部 企業統治の在り方
第2 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定
従前,会計監査人の選解任等については議案の内容を決定するのは取締役会であった。
監査役は同意権と取締役に対する議案提出請求権しか持たなかったが,要綱案では,もう一歩踏み込んで,監査役が会計監査人の選解任等に関する議案の内容を決定できることにして監査役の権限を若干強化した(報酬決定権限までは付与せず。)。

 
第3 資金調達の場面における企業統治の在り方
1 支配株主の異動を伴う募集株式の発行等
公開会社では,支配株主が変わる株式発行について株主が異議を唱えられるようになる。
すなわち,募集株式発行の際,その引受人が結果的に株式の過半数を制するような事態が生じる場合には,事前に既存株主への通知・公告が必要となり,10分の1の議決権を持つ株主が2週間以内に反対通知を会社に提出すれば,株主総会決議(普通決議だが,定足数に下限が設定される。)が必要となる。株主の反対が多ければ,当然,株式発行ができないことになる。
ただ,当該会社の財産の状況が著しく悪化している場合において,当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるときは,例外的に株式発行を認めるものとしている。

 
2 仮装払込みによる募集株式の発行等
預合いや見せ金のような仮装払込による株式発行について関与者の責任が見直された。
すなわち,引受人があくまで払込の義務を負うものとし,株主代表訴訟の対象ともする。
仮装に関与した取締役等についても,払込金額に相当する金額を支払うものとする。
上記金額が払われない限り,引受人の株式について権利行使はできないこととされる。なお,株式を善意無重過失で譲受した第三者は権利行使を許される。
現行法では,仮装に関与した引受人・取締役等の責任に関する規定が無く,株式の効力についての明確な規定が無いため上記のような改正となった次第である。

 
3 新株予約権無償割当に関する割当通知
新株予約権を用いた資金調達(近年注目されている。)に時間がかかっていたのを見直したものである。実務的な注目は大きい。

 

(つづく)

会社法改正の状況の説明

会社法改正の状況についての説明 その1

1 会社法改正要綱案
平成24年8月1日の法制審議会会社法制部会第24回会議で、「会社法制の見直しに関する要綱案」が取りまとめられた。
今秋から来年春までの間に会社法改正法案が国会に提出されると見込まれている。

2 要綱案の目次
第1部 企業統治の在り方
第1 取締役会の監督機能
第2 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定
第3 資金調達の場面における企業統治の在り方
第2部 親子会社に関する規律
第1 親会社株主の保護等
第2 キャッシュ・アウト
第3 組織再編における株式買取請求等
第4 組織再編等の差止請求
第5 会社分割等における債権者の保護
第3部 その他
第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求
第2 株主名簿等の閲覧等の請求の拒絶事由
第3 その他

 
3 解説(上記目次に沿って解説する)
第1部 企業統治の在り方

 

第1 取締役会の監督機能
1 監査・監督委員会設置会社制度
新しい会社類型として,「監査・監督委員会設置会社」が導入される。
監査・監督委員会設置会社は,取締役会と会計監査人の設置は強制されるが,監査役は置いてはならないものとされる。
監査役の代わりに会社の業務執行を監督する機関として,「監査・監督委員会」という今までにない機関を置く。
この監査・監督委員会は,監査・監督委員である「取締役」3名以上によって構成される。過半数は,社外取締役でなければならない。つまり,最低2名の社外取締役を用意しなければならないということだ。
監査・監督委員会が担うのは,取締役らの職務の執行の監査,監査報告の作成,会計監査人の選解任議案の内容決定等,であり,そのための各種調査権限が与えられ,取締役会招集権,不正発覚時に取締役会に報告する権限,不正に対する中止請求権等の権限が与えられることになる。
監査・監督委員は,取締役ではあるが,業務を執行する取締役とは一線が画されており,選解任においては独立性を確保するための制度が用意されている。
たとえば,監査・監督委員になることを前提に株主総会で選任されその他の取締役とは区別して選任される,監査・監督委員の選解任につき意見を陳述する権限がある,任期が普通の取締役が1年以内であるのに対し2年とされている,報酬も普通の取締役とは別に決定される,等である。
なお,監査・監督委員会設置会社への変更を促すため,会社にとってメリットとなるような内容も盛り込まれている。
その1つが,取締役(監査・監督委員である取締役を除く。)との利益相反取引について,監査・監督委員会が事前に承認した場合には,取締役の任務懈怠の推定規定(第423条第3項)を適用しないものとすることである。
もう1つが,定款で定めれば,重要な業務執行を取締役に委任することができるというものである。

 

上記のうち,重要な業務執行を取締役に委任することができるという制度は,委員会等設置会社にのみ許されてきた。
委員会等設置会社で許容されているため,委任の制度が導入されることになったのであろうが,委員会等設置会社では,取締役会の中に指名委員会・監査委員会・報酬委員会という3つの機関を置くことが要求されているのと比較し,監査・監督委員会設置会社では,指名委員会・報酬委員会が無いため,ガバナンスが相対的に劣り,定款でもって取締役に重要な業務執行を委ねてしまうのは危険ではないかという意見も寄せられていた。
裏を返すと,上記制度は,経営者側からしてみると,監査・監督委員会に組織変更する大きな動機付けになるものと考えられる。

 
2 社外取締役及び社外監査役に関する規律
平成24年8月1日の法制審議会会社法制部会会議では,以下の内容の附帯決議がされた。
「1 社外取締役に関する規律については,これまでの議論及び社外取締役の選任に係る現状等に照らし,現時点における対応として,本要綱案に定めるもののほか,金融商品取引所の規則において,上場会社は取締役である独立役員を一人以上確保するよう努める旨の規律を設ける必要がある。

 

2 1の規律の円滑かつ迅速な制定のための金融商品取引所での手続において,関係各界の真摯な協力がされることを要望する。」
経済界の強い反発があり,社外取締役の選任義務化は見送られたが,ソフトローにおいて社外取締役の選任義務化を事実上進めていこうという狙いである。
また,監査役会設置会社(公開会社で大会社であるものに限定。)のうち,発効株式について有価証券報告書を提出しなければならない株式会社(金融商品取引法第24条第1項)において,社外取締役が無い場合には,社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告の内容とするものとすることも定められた。
社外取締役を置かない理由を書かせることがどの程度企業にプレッシャーを与えるか疑問視されているところである。経営者の中には,簡単な理由付けで足りるという認識があるようである。
次に,社外役員の「社外」性の要件については,厳格化が図られると同時に,若干の緩和がされることになった。
まず,当該会社だけでなく,親会社や兄弟会社(親会社の別の子会社)の役員・従業員等の社外性が否定されることとなった。
また,事実上の影響力を考えて,会社の役員・従業員の配偶者や2親等以内の親族の社外性が否定された。
もっとも,重要な取引先等の関係者は,対象範囲の限定の困難さから,社外性の否定は見送られた。
他方で,対象期間は限定された。
すなわち,従前は対象期間の限定無く,過去に当該会社の業務執行取締役や従業員となった人物は社外性を否定されていたが,就任の前「10年間」株式会社又はその子会社の業務執行取締役等をやっていなければ,社外性が認められることになった。

 

(つづく)

賃料を減額できないという合意は有効か

弊社は,大家さんから建物を借りて10年以上前から店舗を運営していますが,賃料が高すぎるように思えてきました。
賃料の減額交渉をしたいと思って,大家さんと交渉しているのですが,大家さんからは,契約書に「借地借家法32条はこれを適用しない」という条項があるから,減額交渉したいなら,一旦賃貸借契約を解約しないとダメだと言われています。
どう対応したら良いでしょうか。

(ご回答)
借地借家法32条は,いわゆる強行法規であり,賃貸借契約上適用が排除されていても,無効です。
強行法規というのは,当事者でこれに反する合意をしても,合意が無効となる法規を指します。
したがって,上記のような強行法規に反する条項があっても,強行法規が優先しますので,借地借家法32条が適用され,減額交渉は可能です。
もちろん,一旦賃貸借契約を解約する必要もありません。
賃貸借契約では,このような強行法規が沢山あるため,契約書上適用が排除されていても適用される可能性があるため,諦めずに相談して頂きたいものです。

別居時の生活費はいくら渡せばいいでしょうか

私は会社役員ですが,現在,妻と別居しています。子供を養育している妻から生活費を請求されていますが,いくら払えばいいのでしょうか。インターネットで調べると算定表がありますが,自営業と給与所得者と分かれていますが,私のような役員はどちらにあたるのかよく分かりませんので教えて頂きたいと思います。

 

(結論)
夫が妻に渡すべき生活費については,算定表があり,夫と妻の年収,妻が養育している子の数や年齢が分かればおおよその計算が可能です。算定表は,下記のアドレスを参照して下さい。

 

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/index.html

 

生活費を支払うべき側の年収を縦軸でチェックし,生活費をもらう側の年収を横軸でチェックし,両方を延長して重なるマスが支払うべき生活費になります。なお,「婚姻費用」とは妻と離婚していない場合,「養育費」は妻と離婚している場合ですので,ご注意下さい(婚姻費用は配偶者の生活費も含みますので,婚姻費用>養育費となります。)。
なお,会社役員の役員報酬ですが,これは,「給与」に該当します。
算定の際には参考にして下さい。

悪戯書き事故と車両保険金請求(立証責任)

車両に対する悪戯書き事故と車両保険金請求について,立証責任はどうなっているか。

(結論)
車両の悪戯書き事故に関する最高裁判例はありませんので,立証責任に関する確定的な裁判例はありませんが,東京高裁レベルでは,保険金請求者側の立証責任は,①「損傷が人為的にされたものであること」及び②「損傷が被保険者以外の第三者によって行われたこと」という事実について立証責任があるものとされています。

 

(判例)
東京高等裁判所平成21年11月25日判決は,次のとおり判示しています。
「そこで、いたずら事故について保険事故として保険金を請求する者の主張立証責任につき検討する。
いたずらとは、一般に無益で悪いたわむれのことであり、本件に則していえば、所有者の意思に反する第三者による車両への損傷行為をいうものと解することができるが、本件保険契約においては、被保険自動車のいたずらによる損傷という保険事故が保険契約者又は被保険者の意思に基づいて発生したことは、保険者が免責事由として主張、立証すべき事項であるから、被保険自動車のいたずらによる損傷という保険事故が発生したとして保険金の支払を請求する者は、被保険自動車への損傷行為が被保険者の意思に基づかないものであることを主張、立証すべき責任を負うものではない。

 
しかし、上記主張立証責任の分配によっても、保険金請求者は、「被保険者以外の者がいたずらをして被保険自動車を損傷したこと」といういたずらによる損傷の外形的な事実を主張、立証する責任を負うものというべきである(最高裁平成19年4月23日第1小法廷判決・判例時報1970号106頁参照)。そして、いたずらによる損傷という保険事故の外形的事実としては、①「損傷が人為的にされたものであること」及び②「損傷が被保険者以外の第三者によって行われたこと」という事実から構成されるものと解される。

 

本件においては、何者かによるいたずら行為を目撃した者の証言などの直接的証拠は存在しないので、保険金請求者としては、①「損傷が人為的にされたものであること」については、これを推認するに足りる、本件車両パネルの損傷の個数や傷跡の形状、道具を使用した傷であるか否かなどの間接事実を、②「損傷が被保険者以外の第三者によって行われたこと」については、これを推認するに足りる、損傷が加えられたと考えられる時刻、場所、損傷を生じさせるに要する時間及び被保険者のアリバイの有無などの間接事実を主張立証すべきであると解される。」

1人加盟組合との団体交渉を拒絶できますか?

この度,当社の外部の労働組合から,団体交渉を要求されました。
団体交渉の議題は個別の紛争に関するものではなく「賃上」であり,労働組合側は,当社の誰が組合員かを明らかにしません。
組合いわく,組合員の名前を明かすと,当社から組合員に不当な圧力が加わる可能性があるとのことで,一向に名前を明らかにしないのですが,当社としても,当社の従業員が組合員となっているか否か分からない以上,団体交渉には応じられないと考えております。
組合員の氏名を明らかにするまでは団体交渉を拒絶できますでしょうか?

(結論)
団体交渉の拒絶はできますが,絶対に団交拒否にならないという訳ではなく,たとえば,従業員1人でも組合員となっていることが分かる資料が示されたら,団体交渉を拒絶できません。

 

(理由)
新星タクシー事件(東京地裁判決昭和44年2月28日)では,団交議題が解雇撤回のケースにおいて,当該被解雇者が組合員であることを明らかにすれば足り,被解雇者以外の組合員の氏名,人数を明らかにすることは当該議題に関する限り不要と判示されています。
したがって,労働組合は,組合員名簿や組合規約などの提出をすべき法的な義務は無いし,これをしなくとも会社は団体交渉に応諾する義務があるとされています。
もっとも,当該組合に一人も従業員が加入していない可能性がある場合には,当該組合が労働者の代表であるか会社には分からないと言えます。
したがって,使用者が雇用する労働者の代表者であることを証明する何らかの資料が提示されない限りは,団体交渉を拒絶できるものと解されます(※組合員全員の氏名が明らかになっていないことを理由にすることはできません。)。
なお,確定した裁判例が無いため,この問題については,明確な回答ができませんのでご了承下さい。

抵当権の設定をするなら土地・建物両方をとろう

債権の担保のため,債務者の不動産に抵当権を設定しようと思っています。うわさでは,土地だけ抵当権を設定しておけばいい,建物はどちらでもいい,と聴きますが,その通りでしょうか。

1 結論
もし,建物が建っている土地にだけ抵当権を設定した場合,土地を競売しても大変な損をします。抵当権を設定するなら,土地と建物両方に登記を設定して下さい。また,保存登記が無い建物についても保存登記をして必ず抵当権を設定して下さい。

 

2 理由
建物が建っている土地にだけ抵当権を設定した場合(建物・土地ともに債務者の所有だったと仮定します。),債務者がお金を払えずに抵当権を実行すると,建物には法定地上権が成立する場合があります。
法定地上権は賃借権のようなものだと理解して下さい。
このため,競売しても,土地は,更地としての価値がありませんので,大幅に価値が下がります。よって債権回収に当たっては,土地だけに抵当権を設定するというのは完全な誤りです。
なお,建物が未登記であったとしても,この法定地上権は成立することになりますから,債務者に保存登記をさせた上で,抵当権を設定する必要があります。ご注意下さい。

生命保険金と特別受益

既に母は亡くなり,今般,父も亡くなりましたが,父は弟を多額の生命保険金の受取人に指定していました。弟がもらえる遺産は生命保険金の分だけ減るのでしょうか?

1 結論
原則として,生命保険金は特別受益とならず,弟さんが取得する遺産額はその分減ることはありません。但し,遺産額に比べ生命保険金額がとても多い場合(たとえば遺産額と比較して生命保険金額がその6割以上であるような場合。1割程度なら特別受益に該当しない旨の判例はあります。),特別受益に該当する場合があります。特別受益に該当すれば,その分,弟さんの遺産取り分が減ることになります。

2 理由
生命保険の死亡保険金は,生命保険契約に基づき被相続人の死亡によって直接保険金受取人が取得することになります。したがって,死亡保険金は遺産に含まれず,原則として特別受益にもなりません。
しかし,最高裁平成16年10月29日判決では,「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる。」と判示し,例外的に生命保険金の受領が特別受益になる場合があることを認めています。
下級審では,遺産額の6~7割程度の生命保険金について,特別受益と認めた判例がありますので,諦めずに,特別受益だと主張する必要があるでしょう。

賃貸物件の管理~物件を貸す際に行うこと

私は,建物賃貸を業としている会社に勤めていますが,退去する賃借人に原状回復を求めると,よく「借りた当初から汚れていた,壊れていた」と主張され,困ることがあります。どうしたら良いでしょうか。

1 結論
借りる前の部屋の写真を撮影したり,賃借人から最初に部屋の汚損や器具の破損の有無について確認書をとるなどして,トラブルを防止しましょう。

 

2 理由
基本的に,賃借人は,借りた物件が破損・汚損していたらこれを元通りにして賃貸人に返還する義務があります。
これを原状回復と言いますが,「元」がどうであったかが争いになると水掛け論となり非常に面倒なことになります。
したがって,当初の部屋の状態を写真におさめるか(もちろん,日付が写真に入るようにして下さい。),賃借人から部屋の汚損や器具の破損が無い旨の立会い確認書をとるようにして,後日の紛争を防止する必要があります。
高額な賃料の物件ほど,争点が多くなりますので,きちんと事前の対応をする必要があります。
貴社がこのような体制を一旦とるだけで上記のようなトラブルは無くなると思います。
以上
※本記載は平成24年5月31日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べ下さい。

差し押さえることのできる財産

相手方に対して,お金を払ってもらおうと思いますが,相手方の財産を差し押さえることはできますか。

1 結論
判決・公正証書等により債権が確定していれば,裁判所に申立てをして,相手方の財産を差し押さえることができます。
また,債権が確定していなくても,相手方が勝手に財産を第三者に売ったり隠匿しないように,やはり裁判所に申立てをして,財産を仮に差し押さえ保全することができます
但し,法律上差押えができない動産や債権がありますので,注意してください。
たとえば,給料・退職金の一部,生活必需品(衣服,寝具,家具,台所用品等),中退共からの退職金は差し押さえることができないので,ご注意ください。

 

2 理由
まず,あなたが相手方に対して有している権利は,裁判所等の機関によって,公的に確定してもらえなければ,財産を差し押さえる等執行することはできません。
一般には裁判をおこし,裁判所の判決によって認められる必要があります。もっとも当該権利について公正証書が作成されているならば,これを以て相手方の財産を差し押さえることが可能です。
判決等をとった後,初めて相手方の財産を差し押さえることになりますが,差し押さえる対象の財産には一定の制限があります。
それは,給料の4分の1以上は差し押さえられないとか,退職金の4分の1以上は差し押さえられないとか(民事執行法152条),生活必需品と見られる動産については,債務者の最低限の生活を守るため,差押禁止となっています(民事執行法131条,132条)。なお,法律上特別に差押禁止となっている財産としては中退共の退職金があります。同退職金は法律上差押えが禁止されており(但し,税金滞納の場合は除きます。),一切差押えをすることができません(中小企業退職共済法20条)。
もっとも,これらについて銀行預金に一旦振り込まれてしまうと,差し押さえることができる場合もあります。
以上
※本記載は平成24年5月25日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べ下さい。

会社法改正でどのような議論がされていますか?

ためになる実務~会社法制の見直しに関する中間試案(その1)
片岡 憲明
1 中間試案の公表
新聞では度々報道されているが,現在,法制審議会会社法制部会では,会社法制の見直しについて調査・審議が行われており,昨年12月には,中間試案が公表されている。審議のペースを考えると,本年の後半から来年の前半にかけて会社法の改正案が国会に提出される可能性がある。
そこで,公表された中間試案の内容について,その一部を紹介すると共に併せて議論状況を解説したい。

 
2 論点と内容
中間試案の内容は,大きく3つに分かれる。「第1部 企業統治のあり方について」,「第2部親子会社に関する規律について」,「第3部 その他」である。
今回は,第1部 企業統治のあり方のうち,(1)取締役会・監査役の監督機能強化の重要部分を取り上げる。

 
ア 社外取締役の選任義務付け
現行会社法では,社外取締役の選任は義務付けられていない。
中間試案では,社外取締役の選任義務付けに関し,次の3つの案が掲げられている。

【A案】 監査役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)において,一人以上の社外取締役の選任を義務付けるものとする。
【B案】 金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない株式会社において,一人以上の社外取締役の選任を義務付けるものとする。
【C案】 現行法の規律を見直さないものとする。

上記のうち見直し不要とするC案は,監査役会の半数以上を占める社外監査役と機能が重複すること,例外無き義務づけは経営を硬直させること,何より人材確保が著しく困難であること,を理由として挙げており,経済界も強くC案を推す。
しかし,耳目を集める会社不祥事が頻発した実情や,中国・韓国ですら上場会社に社外取締役の設置を義務付けている状況からすると,C案の採用は難しいであろう。
なお,A案とB案とは,対象範囲を分ける視点が異なり,A案よりもB案の方がより限定的である。
B案の会社の具体例としては,上場会社や1億円以上の有価証券(株券や社債券等)の募集・売出を行った会社,過去5年間において株券等の保有者が1000人以上になったことのある会社(資本金5億円以上)等である。
社外取締役義務付けが,市場の信頼を高めるという趣旨であるならば,B案のように,社外取締役が義務づけられる会社の範囲を市場に関与する会社とするのが合理的である。なお,中間試案に対する日弁連意見書においてもB案に賛成している。

 
イ 社外取締役等の要件の厳格化
社外取締役が義務付けられるだけでも会社に対する負担は重いが,更に重い負担となるのが,社外取締役等の要件の厳格化である。
現行会社法では,社外取締役については,現在も過去も当該会社や子会社の業務執行取締役,執行役,支配人,使用人ではないことを要件とし,社外監査役については,上記に加え,取締役,会計参与ではないこと,を要件としている。
中間試案では,A案として,「親会社の取締役,執行役,支配人,使用人でないこと」を追加するとともに,「当該会社の取締役らの配偶者・2親等内の血族・姻族でないこと」も追加することを掲げている。
なお,親会社だけでなく兄弟会社の関係者でないことや重要な取引先の関係者でないことといった要件を追加するかについては,なお検討するものとしている。
このように要件を厳格化する一方で,現行法では何十年前であっても当該会社関係者であったならば社外性が否定されているところ,A案を採用する場合は,10年間,当該会社関係者でなければ社外性が認められる旨の緩和策も提案されている。
なお,B案は,現行法を見直さないとするものである。
中間試案に対する日弁連意見書では,A案に賛成すると共に,上記なお書き部分についても基本的に賛成し,更に,社外取締役に弁護士等の法律専門家の選任を義務づけるべきとの内容となっている。
いずれにしても,社外取締役等の要件の厳格化に伴い人材確保が困難となることが予想され,弁護士会としても,積極的に社外取締役等への弁護士の活用を呼びかけていく必要があるものと思われる。

 
ウ 監査・監督委員会設置会社制度
(ア) 新しい業務監査機関
聞き慣れない名称であるが,中間試案で導入を検討されている会社制度として,監査・監督委員会設置会社がある。
現行法では,業務監査機関として,監査役・監査役会,監査委員会(委員会設置会社)が設置可能である。ここに新たな業務監査機関として,監査・監督委員会を用意する。
監査・監督委員会の構成委員(監査・監督委員)は,業務を執行しない取締役で構成され,人数は3名以上,うち過半数が社外取締役というものだ。
上記委員会の構成員は取締役であるため,もちろん,取締役会に出席し,各種議決権を行使し,取締役の業務執行に対する監査・監督を直接行うと共に,監査・監督委員会に与えられた各種権限を行使して,その独立性を確保する。
この制度の眼目は,社外取締役の選任を促進しガバナンス強化を行う点にある。

 
(イ) 既存の会社制度との違い
もっとも,社外取締役を導入するだけならば,従前の会社制度でも十分可能でありわざわざ新制度導入の必要は無いとの疑問も生じる。
たしかに,監査役会設置会社においても,社外取締役を導入することは会社の自由であった。しかし,監査役会設置会社では,社外監査役を2名以上選任する必要があるため,これに加えて社外取締役を選任するというのは会社にとって負担が重い。
また,委員会等設置会社でも,監査委員会の外に指名委員会・報酬委員会を置く必要があり,これら全ての委員会に社外取締役を過半数置く必要があるため,やはり負担は重いのである。
これら既存の会社制度とは異なり,社外取締役が過大な負担無く置ける会社制度として,監査・監督委員会設置会社の導入が検討された。

 
(ウ) 監査・監督委員会設置会社の構成
なお,監査・監督委員会設置会社の構成は,①取締役会,②監査・監督委員会,③会計監査人という1通りの組み合わせしかない。監査役も監査役会も置けない。

 
(エ) 監査・監督委員会の権限
監査・監督委員会の権限は,現行法の監査役会と極めて類似のものが想定されている。
たとえば,監査・監督委員選任の同意権,委員取締役の選任に関する議題・議案提出請求権,委員取締役の解任は株主総会での特別決議が必要であること,株主総会における各種意見陳述権,任期が2年であること,報酬の決定が他の取締役から独立していること等である。
これらの権限によって,委員取締役の独立性が担保されることになる。
以上の通り,監査・監督委員会設置会社は,工夫された制度ではあるが,中間試案では,監査・監督委員会の負担を軽くしようと,常勤の委員を不要としたり(監査役会では常勤監査役が必須),取締役会が取締役に決定を委任できる業務執行の決議事項の範囲が委員会設置会社と同等になる場合が規定されている等,ガバナンス強化の趣旨に反する事項も掲げられており,問題点が指摘されているところである。
ガバナンス強化の趣旨に反する組織にならないよう今後も注視する必要があると言える。

定年を迎えた従業員の雇用について

Y社は,60歳定年制を就業規則で定めているが,高齢者雇用安定法の改正に伴い,労使協定で継続雇用制度を導入した。
制度の内容としては,65歳まで嘱託として再雇用するが,1年更新の契約であり,一定の基準を満たす者のみ更新されるというものである(「一定の基準」は,定められていない。)。なお,労働条件は,会社と従業員とが協議して決める。
Xは,勤務態度が良好でなかったことから,60歳定年に伴い,定年退職後に再雇用されなかった。
Xは,これを不服とし,従業員としての地位確認請求をY社に対してした。
Y社はこれに応じなければならないか。

1 結論
基本的には応じなくても良いと思われます。

 

2 理由
高年齢者雇用安定法9条は,次のように規定されています。

(高年齢者雇用確保措置)
第九条  定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一  当該定年の引上げ
二  継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該 高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三  当該定年の定めの廃止

同法9条を素直に読むと,65歳までの雇用が当然に義務づけられているかのようにも読めます。
しかし,9条は,会社と労働者の間に私法的効力を認めることまで規定していないしどのような契約内容が成立するか規定されてないです。また,同法10条における制裁もごく軽微なものです。
したがって,9条により,当然に会社と定年後の労働者との間で労働契約が成立することは無いと言えます。裁判例でも同様の理由により,契約の成立を認めていない判例が多いです。
本件では,再雇用契約を締結する前は,契約内容が固まらないため,いずれにしても,XがYに対し従業員としての地位の確認を請求することはできないと言えます。

 

3 過去の裁判例のエッセンス ※正確な内容については原典をあたって下さい。
・高年齢者雇用安定法9条の法的効力
(岐阜地裁平成23年7月14日判決)→労働者側敗訴
原告が再雇用を拒絶した被告会社に対して地位確認請求をしたもの。
結論としては原告の請求を棄却。
原告は,解雇権濫用法理を主張→裁判所は再雇用契約の締結を求める権利は労働者に無いと判断し,解雇権濫用法理の適用の余地はないと判断。←高年法9条1項に私法的効力はないことを前提とする(私法的効力を認める旨の規定がない,制度内容が一義的でない,10条の制裁は軽いものであること)。
被告会社の再雇用基準は高年法9条に違反するものではない。
再雇用規程の内容からして,勤務条件は一切定まっていないため,実際に再雇用の契約が締結された場合にしか定年後の労働契約上の権利を主張できない。
原告が再雇用基準にあてはまるかどうかについては全く審理せず。

 

(大阪高裁平成23年3月25日判決)津田電気計器事件→労働者側勝訴(上告中)
詳細な再雇用基準がある事案である。
裁判所は,継続雇用の申込があった場合に,使用者側に採否の自由があるわけではなく,基準を満たす労働者は継続雇用を承諾しなければならないと判断。
本件では基準を満たすので,原告の地位確認を認める。解雇権濫用の法理を類推適用した画期的な内容であった。
その上で,継続雇用が認められた場合の賃金額が明確に定められているため,あてはめをして,賃金支払の請求も認めるものとした。

 

(東京高裁平成22年12月22日判決)西日本電信電話定年制事件→労働者側敗訴
原告が地位確認と,損害賠償を請求した事案。
高年法9条1項の私法的強行性を否定した。
同条項は,使用者の裁量を柔軟に認めるものとして,被告の継続雇用制度を違法と判断しなかった。

 

(大阪高裁平成22年12月21日判決)NTT東日本事件→労働者側敗訴
高年法9条1項の私法的強行性を否定。
9条は特定の継続雇用制度を推奨しているものではなく,多様な制度を容認している。
もっとも継続雇用にあたり,必要性合理性の無い大きな不利益変更がある場合には,継続雇用制度を定めたことにはならない。本件では必要性合理性のある不利益変更であるため,同条に反するとまでは言えない。

相続や遺言について知っておくと良いこと

相続や遺言について知っておくべきことがあったら,ざっと教えてもらえませんか?

相続のお話し
遺言を書く人が増えています。なぜでしょうか。
少し前から,遺言に関する本がたくさん出ており,専用のコーナーを設けてある本屋さんも少なくありません。
かつては,遺言を書く方は少なかったのですが,最近は非常に増えています。
相続に関する人々の意識や人間関係も変わってきたためか,昔であれば内輪で解決できた(解決せざるをえなかった)事柄が,裁判所に持ち込まれることが多くなってきています。相続問題はその典型と言えるでしょう。

 
もし遺言がないとどうなるのでしょうか。
遺言がないと,残された方々全員(夫,妻,子,親,兄弟,甥姪,いろいろなパターンがあります)で,遺産を分ける話し合いをすることになりますが,残された方々の「取り分」は,法律で決まっています。
もちろん話合いで法律の取り分とは異なる合意(たとえば,ある人は1円ももらわないと決める。)をすることはできます。しかし,内輪の話合いで解決できず,調停や裁判の場に持ち込まれてしまえば,法律で決まっている「取り分」で解決することになります
しかし,法律は,一般的なきまりにすぎませんから,あなたのご家庭の事情をくみとった相続ができるとは限りません。なにより亡くなった方の意思とはまったく違う相続になってしまうことすらあるのです。

 
お子さんがいないご夫婦は・・・
たとえば,お子さんがいない夫婦の一方(たとえば夫)が亡くなった場合,夫の財産の1/4は夫の兄弟姉妹の取り分ということになってしまいます。自宅が夫名義である場合,自宅の時価の1/4のお金を寄こせ,と言われかねないのですが,そのことを知っておられる方は,少ないのではないでしょうか。
もちろん,その兄弟姉妹の方が「いらないよ」と言って書類に実印を押してくださればよいのですが,そのようなことを頼まなければいけないのも大変です。
このような場合でも,遺言があれば,わざわざ頭を下げてお願いせずとも,奥様に自宅や預貯金などの財産を残してあげることができます。

 
遺留分とは?
とはいえ,遺言に書けば,どんなことでも有効になるものでもありません。兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」という最低限の取り分があって,「息子に1円もあげたくない」といっても,ふつうはできません(遺留分放棄などの例外もありますが,裁判所の手続が必要となります)。

 
会社のオーナーさんは・・・
ですので,たとえば会社のオーナーさんが「子の一人を跡継ぎとして全株式を相続させたい」という場合には,ふつうは,他のお子さんの遺留分を別に確保しておく必要があります(遺留分放棄ができる場合は別です)。
もし遺言を残さず,株式を半分ずつ兄弟で相続すると,誰も過半数を有していないので,会社が何も意思決定できなくなってしまいます。このような事態を避けるためにも,遺言を残す必要があるのです。

 
遺言を書くかどうか? どう書くべきか?
ご説明したのはほんの一例であり,ご家庭の事情はそれぞれ違いますので,家族関係,財産状況,これからの生活などいろいろな事情を考慮したうえで,ご自身の意思を最大限に生かした遺言を作るためには,まずは法律の専門家である私ども弁護士にご相談いただければと思います。当事務所では,相続問題につきましては30分の無料法律相談を行っておりますので,お気軽にお問い合わせください。

インターネット掲示板への困った書き込み

先日,従業員から報告があり,インターネット上の掲示板に我が社の商品について欠陥があるとの書き込みがされていることをつかみました。しかし,これは全くの嘘であり,書き込みをした人間に対して損害賠償を請求したいと思います。書き込みをした人間を調べることはできますか。

1 結論
ちょっと手間がかかりますが,調べることは可能です。

 

2 理由
まず,インターネット上の掲示板を管理する管理者に対して,当該書き込みをした人間のIPアドレスとタイムスタンプの開示を請求します。
最高裁は,このような開示請求を近時認める旨の判決を下しました(平成22年4月8日判決)。
こうしてIPアドレスとタイムスタンプの開示ができたら,次に当該IPアドレスを管理するプロバイダに対して,IPアドレスに対応する氏名・住所を照会します。
これによって,書き込みをした人間を特定することが可能になります。
各情報の開示の請求にあたっては,ガイドライン付属の書式による方法,弁護士からの照会がありますが,管理者やプロバイダ側が任意に開示しない場合は,訴訟といった方法をとることも可能です。

建設業法を利用した債権回収

建設業法を利用した債権回収
建設業を営む会社の社長さんが,法律事務所を訪れました。

(相談内容)
うちの会社は,大手建設会社の下請建設会社Y社から多数の孫請工事を請け負ってきます。今は,トラブルのため,Y社からの受注を断っている状況です。
Y社は,最初こそ工事の発注書を発行しますが,追加変更工事が発生しても,一切発注書を発行してくれませんでした。
しかも発注書の金額は,こちらが見積もった金額を理由無く3割カットした金額であり,これでは利益は1円も出ないばかりか,むしろ赤字となります。
担当者は,あとできちんと埋め合わせをするから安心しろ,これが正式な代金額ではない,と再三説明しますが,何度も請求書を送っているのに請求書記載の金額の半分すら支払わないので,全く信用できません。
工事が完了してから3か月経過しても待ってくれと言うばかりで一向に支払をしてくれません。
請求額も500万円を超えています。一体,どうしたらいいでしょうか。

 

建設業法による保護

 

弁護士 Y社は,建設業法を完全に無視しているようです。

 

社長 法律違反をしているんですか。ひどいとは言っても,違法行為をされているとまでは思っていませんでした。

 

弁護士 建設業法では,各種の下請保護のルールが定められています。
①見積条件を提示すること(20条3項)
下請人に見積をさせる場合には,工事内容を具体的に提示しなければならないし,必要な見積期間を確保しなければなりません。
②書面による契約締結(18条,19条1項2項,19条の3)
下請工事の着工前に,建設業法所定の事項を記載した書面で契約を締結する必要があります。契約書の形でなくとも,工事代金等を記載した書面の取り交わしが求められます。

 

社長 ②はびっくりしました。我々は,よっぽど大手の仕事以外は,契約書など作ったことが無いからです。口頭でやったり,簡単な注文書1本だけだったりします。

 

弁護士 法律上は違法だということです。慣習は言い訳になりません。次のような保護規定もあります。
③不当に低い請負代金禁止(19条の3)
元請負人が,取引上の地位を不当に利用して,通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金とする契約を締結することは禁止されています。

 

社長 相手方が発注書でこちらの見積を3割カットした金額を記載していても,原価に満たない場合は,違法ということですね。

 

弁護士 そうです。
④指値発注の禁止(18条,19条1項,19条の3,20条3項)
また,元請負人が,一方的に決めた金額で下請契約を締結させることは禁止されています。御社のケースでは,これにも該当する可能性があります。
⑤やりなおし工事の下請負人負担の禁止(18条,19条2項,19条の3)
なお,下請負人の非が無く工事がやりなおしになってしまった場合,下請負人にやりなおし分の費用の負担させてはいけません。
⑥支払留保の禁止(24条の3,24条の5)
元請負人の完成確認検査及び引渡が終了したのに,下請代金を支払わないことは違法です。

 

社長 なるほど。⑥の違反は明らかです。今後,どういう対処が可能ですか。

 

建設業法違反の効果

 
弁護士 実は,建設業法に違反しているから直ちにY社から適切な代金が払ってもらえるというものではありません。本来は,裁判で訴えて判決をとるという通常訴訟の手続をとる必要があります。
ただ,普通の債権回収と異なるのは,行政の力を借りることができるということです。

 

社長 どういうことでしょうか?

 

弁護士 具体的には,建設業違反を県に申告し,県から相手先に調査をしてもらい,指導・助言・勧告をしてもらうことができます。これが相手先への圧力となります。

 

社長 なるほど,こういうことを通して,債権回収を促すということですか。

 

弁護士 建設業法違反によっては,公共事業の指名停止処分を受けるものもありますので,相手先が公共事業をしているようなケースでは効果があります。また,場合によっては,独占禁止法違反にもあたるということで公正取引委員会から勧告等の処分を引き出すことも可能かもしれません。

 

社長 債権回収は半分諦めていましたが,頑張ってみようと思います。

 

どうしても払わない場合

 
弁護士 そうですね。もちろん,これらの手続で相手が支払に応じなければ,最終的には裁判しかありません。ただ,今回のようにちゃんと値段がはっきりしない工事の代金については,争いになりそうですので,Y社の幹部・担当者と話をする機会をもうけ,代金額についての相手方の言い分を録音する等して証拠保全に努めるべきです。

 

社長 分かりました。早速とりかかります。

 

建設業以外でも,下請業務については様々な保護法があります。したがって,これらの保護規定を有効活用すれば債権回収につなげることができるかもしれません。

破産から保証金を守る

破産から保証金を守る

顧問会社で商社のX社の総務課課長さんが弁護士の下を訪れました。
我が社は,準ゼネコンのY社から,Y社所有のビルの3階を借りて,名古屋支店を置いています(賃料月30万円)。
この度,Y社が破産するという弁護士からの通知がありました。
たまたま,我が社は,通知があった半年後にこのビルを退去することになっていたのですが,保証金を300万円ほどいれています。
保証金は戻ってくるのでしょうか。
また,保証金が戻ってこないとすると,半年間の賃料を払うのもバカバカしいのですが,何とかならないのでしょうか。

3つのシナリオ
弁護士 今回の保証金の話ですが,場合を分けてご説明する必要があります。
①最悪のシナリオ~退去前にビルが売れず,かつ何らの法的な対処もしない場合です。
②最善のシナリオ~退去前にビルが売れた場合です。
③次善のシナリオ~退去前にビルが売れなくとも,法的な対処をすることで①を避ける場合です。

 

①最悪のシナリオ
弁護士 まず,何もせず,しかも,ビルが第三者に任意売却されることもなく,御社がビルを退去することになった場合,御社の保証金は殆ど戻ってこなくなります。

 

課長 破産の通知が来ても誠実に家賃を払っている我々にとっては,あまりにむごい仕打ちではありませんか?

 

弁護士 そうですよね。しかし,保証金返還請求権を特別扱いしたら,他の債権者からはどうして?と疑問が出るでしょうね。

 

課長 なるほど。他の債権者も低い配当となるのですからしょうがない,ということですか。

 

②最善のシナリオ~棚からボタ餅
弁護士 しかし,運良く御社が退去する前にビルが任意売却されると,保証金は全額戻ってくることになります。

 

課長 え!どういうことですか?

 

弁護士 実は,保証金返還請求権は,賃貸借契約にお供をする権利なのです。したがって,御社の退去前にビルが任意売却されると,買った第三者に御社との賃貸借契約が引き継がれますが,保証金返還請求権もこれにお供して引き継がれますから,その第三者が払う必要が出てきます。

 

弁護士 賃借人の立場で言ったら当然のことですよね。保証金が新しいオーナーに引き継がれないとしたら,賃借人の関係の無いところで,保証金を回収できなくなってしまいますから。他方,新オーナーは,買うときに,いくら保証金を返せばいいか,預かっている保証金額を旧オーナーに尋ねることができますから,不合理ではありません。

 

課長 なるほど。でも,我が社が退去した後に売れた場合には引き継がれない,というのも変な話ですね。

 

弁護士 あくまで賃貸借契約にお供する,ということからすると,賃貸借契約が終わってしまうと,お供しなくなるわけですね。

 

弁護士 いずれにせよ,第三者が御社の退去前にビルを買ってくれれば,御社の損失はゼロです。

 

課長 しかし,それでは運任せになりますよね。

 

弁護士 そこで,③の話をさせて頂きます。

 

③次善のシナリオ~寄託請求

 

 

弁護士 ①で述べましたように,御社が何も手を打たずに,放置しておくと,賃料は退去までしっかり払わされるわ,保証金は殆ど戻ってこないわ,ひどい結果となります。そこで,「寄託請求」をして頂くと良いです。

 

課長 一体何ですか?

 

弁護士 要するに,「これから納める賃料を預かっておいて下さいね。退去するときに,保証金額を上限として,納めた賃料分を返してもらいますよ。」という制度です。破産法70条に規定されています。

 

課長 我が社のケースでは,保証金全額は戻ってこないとしても,これから払う30万円の賃料の半年分を確実に返してもらえる,ということでしょうか。

 

弁護士 その通りです。寄託請求の理屈を簡単に説明しましょう。賃貸借契約が終わり,借りていたものを返す際,未払賃料があったら保証金に当然に充当されます。寄託請求をすると,寄託された賃料は毎月の賃料に充当されなかったことになります。寄託請求しておかないと,毎月払うお金は毎月の賃料に充てられたことになり,保証金から差し引くべき未払賃料が存在しないことになります。

 

課長 難しいですが,何となくは理解できました。いずれにしても,知らないと大損になるところでした。

 

弁護士 寄託請求をする賃借人は,ほぼ皆無に近いです。ご相談頂いて本当に良かったです。

土地区画整理と賃貸借

<土地区画整理と賃貸借>

Xは,酒屋を営んでいる。
Xの先代は,昭和10年頃に,土地100㎡を借りて,木造建物を建築した。
しかし,昭和30年に火災で建物が焼失し,現在の建物(木造)はその当時に建築されたものである。
Xの先代も,賃貸人も死亡し,それぞれの子に相続がされている。
地代は,付近の相場より安い1㎡あたり300円である。
今回,土地区画整理事業が始まり,Xは来年度には建物を収去しなければならなくなったが,賃貸人からは,退去や買取を要望される可能性があるが,どう対応したら良いか。
なお,Xに支払われる補償金は,1000万円程度である。

1 土地区画整理事業と土地賃貸借契約
土地区画整理で仮換地が指定されると,土地の所有者や借地権者は,従前の土地に対する使用収益件を停止され,仮換地指定の効力発生日から仮換地を使用収益できる権能を取得します(土地区画整理法99条1項)。

(仮換地の指定の効果)
第九十九条  前条第一項の規定により仮換地が指定された場合においては、従前の宅地について権原に基づき使用し、又は収益することができる者は、仮換地の指定の効力発生の日から第百三条第四項の公告がある日まで、仮換地又は仮換地について仮に使用し、若しくは収益することができる権利の目的となるべき宅地若しくはその部分について、従前の宅地について有する権利の内容である使用又は収益と同じ使用又は収益をすることができるものとし、従前の宅地については、使用し、又は収益することができないものとする。

借地権者は,仮換地に建物を移転しなければなりません。
土地については,従前の土地と換地とが同一とみなされますが(土地区画整理法104条),建物は同一のものとみなされるという規定がありません。
そのため,賃貸借契約との関係で建物をどうするか検討する必要があります。
たとえば,今時,と思われるかも知れませんが,①建物をそのまま移動させる場合(建物を曳いていくことが昔はあったようです。),建物は従前の建物と何一つ変わることがありませんから,土地賃貸借契約は従前通りであり,何らの影響も無いことになります。
これに対し,②建物を解体して,換地でそのまま再築する場合は,判例上,建物の同一性は失われるとしています(最高裁昭和62年7月9日判決)。もちろん,③建物を取り壊し,換地に新築する場合は,建物の同一性はありません。
上記②③の場合,土地賃貸借契約に影響があります。
借地法7条,借地借家法7条には,次のような規定があります。

第7条 借地権ノ消滅前建物カ滅失シタル場合ニ於テ残存期間ヲ超エテ存続スヘキ建物ノ築造ニ対シ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ借地権ハ建物滅失ノ日ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ30年間、其ノ他ノ建物ニ付テハ20年間存続ス 但シ残存期間之ヨリ長キトキハ其ノ期間ニ依ル
(建物の再築による借地権の期間の延長)
第七条  借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失(借地権者又は転借地権者による取壊しを含む。以下同じ。)があった場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から二十年間存続する。ただし、残存期間がこれより長いとき、又は当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間による。
 借地権者が借地権設定者に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において、借地権設定者がその通知を受けた後二月以内に異議を述べなかったときは、その建物を築造するにつき前項の借地権設定者の承諾があったものとみなす。ただし、契約の更新の後(同項の規定により借地権の存続期間が延長された場合にあっては、借地権の当初の存続期間が満了すべき日の後。次条及び第十八条において同じ。)に通知があった場合においては、この限りでない。

今回のケースでは,借地法が適用されますので,これを前提にしますと,賃貸人の異議がない場合は,堅固建物については,30年,非堅固建物については,20年,賃貸期間が延長されることになります。
なお,賃貸人が異議を述べても,元来の土地賃貸借契約の存続期間内であれば,そのまま再築建物のための借地権に適用されます。そうすると,借地法4条,6条の問題となり,正当事由や自動更新の話になります。正当事由の判断ですが,土地区画整理に基づく建物収去は,自らが希望した場合や,過失で建物を滅失させた場合とは違うので,この点は,プラスに評価されると思われます。

(借地法)
第4条 借地権消滅ノ場合ニ於テ借地権者カ契約ノ更新ヲ請求シタルトキハ建物アル場合ニ限リ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス 但シ土地所有者カ自ラ土地ヲ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ於テ遅滞ナク異議ヲ述ヘタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第6条 借地権者借地権ノ消滅後土地ノ使用ヲ継続スル場合ニ於テ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス 此ノ場合ニ於テハ前条第1項ノ規定ヲ準用ス
ちなみに,賃貸人から,地代の増額請求の可能性があることに注意が必要です。土地区画整理により,土地の利用価値が高まる場合があるからです。

(土地区画整理法)

(地代等の増減の請求等)
第百十三条  土地区画整理事業の施行に因り地上権、永小作権、賃借権その他の土地を使用し、若しくは収益することができる権利の目的である土地又は地役権についての承役地の利用が増し、又は妨げられるに至つたため、従前の地代、小作料、賃貸借料その他の使用料又は地役権の対価が不相当となつた場合においては、当事者は、契約の条件にかかわらず、将来に向つてこれらの増減を請求することができる。
 前項の規定により従前の地代、小作料、賃貸料その他の使用料又は地役権の対価の増額の請求があつた場合において、同項に掲げる権利を有する者は、その権利を放棄し、又は契約を解除してその義務を免かれることができる。

 

2 結論
Xにおいて土地を買い取ることについては,賃貸借期間の存続を前提に,任意の交渉をされればよいというお答えしかできません。その場合,路線価の借地権価格が参考になるのではないでしょうか。
退去については,Xがすぐに退去を迫られるようなことではありませんが,将来の更新時期に紛争が生じることもありますので,リスクがあることは事実です。少なくとも,賃貸人との交渉経過を保存しておいた方が良いと思われます。再築後,建物買取請求権を行使するというのも不可能ではありません。

患者の診療を拒否できる場合

患者の診療を拒否できる場合
私は,10年前に地元で開業医を始めましたが,あるお客が「誤診があった。」と言いがかりをつけ,何度も病院に来ては,看護婦や事務の者に暴言を吐いて,やめて下さい,と依頼しても聴こうとしません。
このお客を出入り禁止にしたいと思いますが,可能でしょうか。

1 結論
慎重に判断する必要が有りますが,可能な場合があります。

 

2 理由
原則として,医師には,応召義務があります(医師法19条1項)。
すなわち,「診療に従事する医師は,診察治療の求があった場合には,正当な事由がなければこれを拒んではならない。」と医師法19条1項に規定されています。
この義務に反すると,悪性が高い場合は,民事上の責任や公法上の責任を問われる可能性もありますので,慎重に判断する必要が有ります。
但し,暴言の程度や内容で従業員を過度に萎縮させたり,他の患者さんを萎縮させるような行動が反復され,制止も聞き入れないような場合には,威力業務妨害とも言うべき状況ですから,「正当な事由」があるとして,診療を拒絶することも不可能ではないと思われます。
弁護士とご相談の上,院内への立入を禁止を求める仮処分命令の申立をご検討されても良いと存じます。

放置車両の撤去法

私は,一般の方に駐車場を貸しています。
賃借人のYは,車を置いたまま,行方不明になってしまい,1年が経過しています。
賃料の支払いも当然滞っています。
Yに連絡をとろうにも,携帯電話や自宅電話は通じません。
車を撤去したり,未払賃料を払ってもらうためには,どのようにしたらいいのでしょうか。

1 結論
その1 Yに対して訴訟を提起することができます。弁護士を通じて交渉することもできます。
その2 車が所有権留保されているならば,所有者名義人に対して,車両の撤去及び未払賃料の支払いを請求するべく,訴訟提起する余地があります。

 

2 理由
その1は,張本人であるYに対する請求です。
問題は,Yをどのように見つけ出すかですが,Yの住民票が移っている場合には,弁護士ならば,移転先の住民票を取り寄せることができます。住民票によって,移転先のYの所在を確認し,Yと交渉したり,訴訟提起することが可能となります。
住民票によってもYの移転先が不明な場合は,公示送達等の手段で訴訟を提起することが可能です。もっとも,この場合,Yの資力はあてにできませんので,撤去費用や未払賃料の回収は事実上不可能になります。

 

その2は,車検証上,オートローン会社が所有権者として名を連ねているような場合です。
張本人のYが相手ではないので,一定の条件を満たす必要があります。
大まかに言うと,オートローンの残債務全額の弁済期が到来している場合は,撤去義務等をオートローン会社が負担します。

 

3 判例
最高裁平成21年03月10日判決は,「動産の購入代金を立替払した者が,立替金債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において,買主との契約上,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期の到来前は当該動産を占有,使用する権原を有せず,その経過後は買主から当該動産の引渡しを受け,これを売却してその代金を残債務の弁済に充当することができるとされているときは,所有権を留保した者は,第三者の土地上に存在してその土地所有権の行使を妨害している当該動産について,上記弁済期が到来するまでは,特段の事情がない限り,撤去義務や不法行為責任を負うことはないが,上記弁済期が経過した後は,留保された所有権が担保権の性質を有するからといって撤去義務や不法行為責任を免れることはない。」と判示しています。
最高裁判例へリンク
つまり,オートローン会社も巻き込むことができる,という判例です。

上場株式の買取請求

上場株式について,合併や減資等に反対する株主は株式買取請求が可能です。
今回は,その手続について,さわりをご説明します。

 
1 投下資本回収のための株式買取請求
会社法上,株主の投下資本の回収方法は,株式譲渡が原則とされているが(会社法127条),譲渡では満足に投下資本を回収できない場合,例えば合併等によって株価が下落したような場合には,例外的に,株主は会社に対して株式の買取を請求できる。

 
2 株式買取請求権を行使する具体的手続
以下,吸収合併に反対する消滅会社株主を例にとり,株式買取請求の具体的手続を説明する(会社法785条及び786条参照)。
①株主総会前に会社に反対の意思表示。
②株主総会で反対の議決権行使。
③合併の効力発生日の20日前から前日までの間に,会社に対して,株式数等を明らかにして(一部行使も可。)買取請求権を行使(以後,撤回は原則不可。)。
④合併効力発生日に株式買取の効力発生。
⑤合併効力発生後30日以内に会社と買取価格を交渉し,交渉決裂の場合は更に30日以内に価格決定の申立を行う。

 
3 株券の電子化に伴う手続
前項に掲げた手続をふめば,会社法上,株式買取請求権を行使できる筈だが,上場株式については,平成21年1月の株券電子化の影響で、④までの間に行う手続がある。

 
(1) 個別株主通知
株券の電子化に伴い,上場会社の株主名簿の書換は,証券保管振替機構からの年2回の総株主通知に基づくことになった(社債,株式等の振替に関する法律151条1,4号)。つまり,株主名簿は年2回しか更新されなくなり,会社が株主名簿でもって現在の株主を特定することは事実上不可能になったのである。
そのため,少数株主権等を行使する株主は,行使の前提として「個別株主通知」を行う必要がある(振替法154条)。
具体的には,株式口座のある証券会社で,「個別株主通知申出書」を提出し,会社に個別株主通知を行うのである(代理人が作成・提出する場合,株主の実印付委任状と印鑑証明書が必須となる。)。

 
(2) 事前の口座振替
第2項④の通り,株式買取請求の効力は合併の効力発生日に生じ,同日対象株式は消滅会社に移転,消滅会社の自己株式になるため,存続会社株式が割り当てられることも無い(会社法749条3項)。
しかし,対象株式を株主口座に残したままだと,口座上,対象株式につき合併に伴う株式割当がされてしまう。一旦割当があると,事後修正に困難を伴う。
そのため,証券保管振替機構では,金融庁等と協議し,買取請求権を行使する株主に対し,合併前に対象株式を会社の自己株式保管口座に振り替えるよう,指導しているとのことである(具体的には「口座振替依頼書」を提出させる)。
もっとも,以上のような取扱は,法令上の根拠も無く(これに反するような条文もある。振替法155条),株主の感覚(対価をもらっていないのに株式名義の移転を先行させることの不公平さ。)にも反するため,上記指導に従うか悩ましい。立法的解決が待たれるところである。

パワハラについて

龍達工業の織田総務課長は、困り顔で顧問弁護士の下を訪れました。織田課長の相談は次のようなものでした。

堂林という新入社員が,態度が悪かったため,担当の課長が「意欲がない,やる気がないなら,会社を辞めるべきです。会社にとっても損失です。あなたの給料でアルバイトが何人雇えると思っているのですか?」という叱責メールを堂林に送りました。叱責メールの文字は赤字で,しかも会社の同僚全員に一斉メールしました。
堂林は,担当課長のこのような行為はパワハラであり,訴えてやる!とテレビ番組の真似をして息巻いています。
会社として,何か対応した方が良いでしょうか?

パワハラって何?

 

織田 最近,パワハラという言葉をよく耳にします。新入社員が上司に楯突くときに使うようです。
一口にパワハラといってもどのような行為がパワハラなのか,よく分かりません。
言葉が一人歩きしているような気がしてなりません。

 

弁護士 セクハラと並んでパワハラという言葉は,認知度が高くなっていますね。
セクハラは,雇用機会均等法11条で定義されていますが,パワハラは法律上の定義がなされていません。
一般には,指導に名を借りた暴言・暴力,誹謗中傷,侮辱,職場における各種無視,過重・無理な業務を指示する,若しくは何もさせない,等の言動が繰り返されると,パワハラと言えるのだと思います。
織田 何となくは分かりましたが,非常に曖昧ですね。どういった事実があるとパワハラとして責任を負うことになるのですか?

 

弁護士 要は,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうかがポイントになるでしょう。
言動の態様,行為者の地位,言動のねらい,必要性・合理性,言動によって従業員が受けた不利益の程度,反復継続性といった点が問題になると思います。

 

問題となった事例

 

織田 現実の裁判では,どんな事案でパワハラが認められているのでしょうか?

 

弁護士 まさしく今回のような事例で,東京高裁は,上司の責任を認めました(東京高判平成17年4月20日)。
裁判所によると,指導や叱咤激励の目的があったのは理解できるが,赤い大きな字のフォントを使ったり,職場の同僚全員にわざわざメールを送ったのは,許容限度を超えている,ということでした。
ただ,請求認容額は,5万円でした。

 

また,東芝府中工場事件では,ある従業員が春闘のビラを配っていたことから,上司に目をつけられ,上司から些細なミスについても、逐一始末書の提出を求められるようになった,という事案で,上司は感情に走りすぎたきらいがあるとのことで,違法と言わざるを得ないという結論になりました(東京地裁八王子支部平成2年2月1日)。
請求認容額は,15万円でした。

 

織田 上司にはいささか厳しい結論ですね。ましてや,我が社のケースでも違法と言われてはたまりません。

 

弁護士 まあでも,5万円のために裁判をする人はいないので,それほど心配しなくてもいいでしょう。
ただ,上司たるもの,ストレスの発散のような形で不必要に部下を叱ったりすると,しっぺ返しをくらいます。
今回の場合は,上司に「やりすぎた,すまん。」と謝罪させ,丸く収めた方がよさそうです。

 

弁護士 厄介なのは,被害従業員が精神的な疾患にかかり,仕事を辞めざるを得なくなるような場合です。こういうケースでは,従業員側が会社や上司が悪いと思い込むので,会社を巻き込んでの訴訟になりがちです。
パワハラの報告を受けたときの初期対応を誤ると,使用者である会社の責任まで認められてしまうことがあります。

 

織田 いわゆる使用者責任(民法715条)というものですか?

 

弁護士 さすが,お詳しいですね。
使用者責任という形だと,加害従業員の責任が認められれば,即会社の責任が認められることになりやすいです。
管理職にはパワハラについての研修を行って,管理職を監督することも転ばぬ先の杖ですよ。

 

織田 よく分かりました。社内でも励行したいと思います。

転職・引き抜き

龍神商事の落合社長は,大変慌てた様子で顧問弁護士の下に訪れました。落合社長の話は次のようなものでした。
長年右腕として厚遇してきた営業部の川上部長(取締役兼務)が知らないうちに同業のアトランタ興業に引き抜かれることになってしまいました。
それだけでなく川上部長は営業部の半数にあたる10名ほどの従業員を同時にアトランタ興業に移籍させたのです。
やり方も汚くて,部下達を慰安旅行と偽って連れ出しアトランタ興業への転職を迫り,アトランタ興業の社長まで登場させて,全員をその日のうちに転職させたそうです。
営業部が半分になった龍神商事の売上は半分以下に落ち込んでしまいました。

転職の自由? 
落 川上部長を呼び出して,話し合いの機会をもうけましたが,川上部長は「自分の力を試したくて うずうずしていた部下達の背中を押しただけで,何も悪くない。転職の自由は誰にでもある。」などと,交渉は平行線でした。

 

弁 職業の自由と言っても何をしてもいいというわけではありません。
転職の自由は最大限に保障されなければなりませんが,単なる引き抜きではなく,①退職の時期を考慮しあるいは事前に予告を行う等,会社の正当な利益を侵害しないよう配慮することなく,②会社に内密に移籍の計画を立て,かつ③一斉に大量の従業員を引き抜く等,社会的相当性を逸脱し極めて背信的な方法で行われた場合,当該首謀者らも責任を負います(東京地裁平成3年2月25日判決)。
したがって,本件では,川上氏は重要なポストにあったのに,会社に大打撃を与えるような人数の引き抜きを秘密裏に且つ騙し討ち的な方法で実行したのですから,損害賠償責任は免れないでしょう。

 

落 では,川上部長にきっちり責任をとってもらいましょう。

 

弁 私から,川上部長に内容証明を送り,交渉をしてみます。

 
書面を取り付けよう 

 
弁 あらかじめ川上部長に誓約書などを取り付けておくと,川上部長に対する警告になったり,交渉も楽になったと思います。

 

落 誓約書ってどんなのですか?

 

弁 たとえば,退職の場合,2年間は近隣地域の同業他社には就職できないとか,近隣地域での営業活動を自粛する,等を誓約させるのです。

 

落 どういうタイミングでやるんですか?
弁 従業員が管理職や役員になるタイミングで取り付けるのが望ましいですね。

 

落 今後は必ずとるようにします。

 

弁 そうして下さい。

倒産の前に登記をしておくように

私は、古くからの友人から自宅の土地・建物を買ってほしいと言われて、代金を渡しましたが、登記を移転させずに放置していました。今般、その友人が破産をし、破産管財人から、私が買った土地・建物は、破産管財人が換価するから、あなたのものではない、と言われましたが、そんな横暴な話があるのでしょうか?破産管財人と言っても、友人の代理人みたいなものではないですか?

1 結論
あなたは、破産管財人に対して、不動産の所有者であることを対抗できません(民法177条)。したがって、破産管財人に土地・建物を引き渡す必要があります。

 

2 理由
破産管財人は、破産者の地位をそのまま引き継いだものではなく、破産債権者の利益のために独立の地位を与えられた破産財団の管理機関にあたりますから、破産手続開始決定前に対抗要件(登記)を備えないと、破産管財人に対抗できません。
登記は代金支払時にすぐに移転しておいてもらわなければならないのです。

 

3 判例
最高裁昭和48年2月16日判決では、土地賃貸借契約について対抗要件を備えていなかったケースで、土地を借りていた方を敗訴させました。

 

※ 民事再生について
ちなみに、上記友人が、民事再生手続を開始した場合も、当該友人(再生債務者といいます。)に対抗できなくなる、という判例が近時、大阪地裁で出されました(大阪地裁平成20年10月31日判決)。
控訴されていますので、今後結論がどうなるかは不明ですが、破産と同様の結論になると思われます。破産よりも釈然としないと思われるでしょうが、登記は備えておくものだと肝に銘じておくべきでしょう。

賃貸借の償却規定って有効ですか?

(賃貸借における償却規定の有効性)
私は、建物を借りてクリーニング店を営んでいますが、別の場所に移転します。今の建物を返すにあたり、大家さんは、契約書にある償却規定にもとづいて、2か月分の賃料相当額を保証金から償却すると言われています。こういう償却規定は有効なんでしょうか。

1 結論
償却規定は有効です。

 

2 理由
保証金の償却は、賃借人の使用による設備の償却費を一部賃借人に負担してもらうという趣旨で取り決められています。
これ自体に、合理性が認められないというわけではありません。
賃借人が消費者である場合には、別途消費者契約法上の救済措置があるかもしれませんが、事業者の場合は、厳しいというのが実際です。

 

2 判例
①東京地方裁判所判決/平成15年(ワ)第22201号、平成16年(ワ)第18783号
②東京地方裁判所平成18年(ワ)第4215号、平成18年(ワ)第10284号精算金請求事件平成19年4月13日

 

いずれの判例も、保証金乃至敷金の償却規定を有効と判断しています。

老朽建物の賃貸借契約を解約したい

私は、親から相続した築50年の長屋式住居を賃貸しています。老朽化した長屋式住居から借家人に出て行ってもらい、新しい賃貸物件を建築したいのですが、どうしたら良いですか。

賃貸家屋が朽廃し、およそ建物としての効用を失っている場合には、建物賃貸借契約が終了し、借家人に出て行ってもらうことができます。
しかし、朽廃まで至らないけれども、保安上危険がある程度に老朽化した建物の場合は、問題があります。

 

家主側の解約申出は、旧借家法1条の2の「正当事由」がある場合にはじめて有効となります。
したがいまして、特に家主側に敷地利用の差し迫った事情が無い限り、借家人に立退料を支払う必要があります。
立退料の金額は、一概には決められませんが、環境によっては、100万円~200万円程度になる場合もあるようです。

 

立退料を払いたくない方は、粘り強く交渉し、代替家屋を提供したり、新しく築造する建物への入居を認めたりして、借家人と円満な解決を結ぶべきでしょう。

運行供用者責任に関する新しい判例

(要旨)
20歳女子が父親所有乗用車を乗り出し、飲酒、泥酔したため、一緒に飲酒の親しい友人が女子を車に乗せて、車を運転、帰宅途中の本件事故につき、泥酔していたとはいえ、友人の運転には「女子の容認があった」、娘が乗り出した以上、所有者父の「容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ない」と、女子車所有者・女子の父に運行供用者責任を認めた。

 

(判旨)
これらの事実によれば、女子は、父から本件自動車を運転することを認められていたところ、深夜、その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから、その運行は父の容認するところであったと解することができ、また、女子による上記運行の後,飲酒した女子が友人等に本件自動車の運転をゆだねることも,その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきである。そして、女子は、電車やバスが運行されていない時間帯に、本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから,客観的外形的に見て、本件運行について、運行供用者に当たると解するのが相当である。
以上によれば、本件運行について父が運行供用者に当たらないとして女子の請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、女子が父に対する関係において法3条にいう「他人」に当たるといえるかどうか等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

 

(所感)
審級毎に判断が分かれる微妙な事案だったのでしょうが,運行供用者責任は,盗難の場合など相当限定された場合にしか否認されないですので,上記最高裁判決も予想の範囲内でしょう。

 

最高裁平成20年9月12日判決

株券電子化とは?

Aさんは、龍神商事の代表取締役ですが、龍神商事の顧問弁護士のところに相談に来たついでに、以前から気になっていた株券の電子化について質問しました。以下は、そのやりとりです。

 

施行日は来年1月5日 

 

A 最近、株券が電子化されるというCMがたくさん流れているけど、株券が電子化されるのはいつですか?

 

弁 株券の電子化は、2009年1月5日に一斉にされます。

 

A 私は会社経営をしているけど、我が社の株も電子化されるってことですか?

 

弁 御社が上場していなければ、電子化されないですよ。電子化されるのは上場株式だけなので誤解しないでください。

 

A で、電子化で何が起こるんですか?

 

弁 極端なことを申し上げれば、電子化によって、お手元の株券が紙切れになってしまいます。

 

A 今まで、殆どの株券を証券会社に預けていたんだけど、もしかしてそれが無価値になってしまうんですかね?

 

弁 たしかに株券は無価値になりますが、株式が消滅するわけではありません。株券預託先の証券会社がそのまま「口座管理機関」になり、あなたのために「一般口座」が開設されます。「一般口座」の株式は、従前通り売買が可能です。殆ど取り扱いの変更はございませんので、ご安心ください。

 

タンス株にご注意 

 

A ほう、すると、証券会社に預けてある株券は問題ないってわけですね。じゃあ、昔買った株で家の金庫にしまっている株券は問題がありそうですね?

 

弁 いわゆるタンス株(証券会社に預託していない株式)については、株主名簿管理人とされている信託銀行等において、あなた名義の「特別口座」が開設されます。

 

A なんだ!自分で作らなくても口座が開設されるんだったらその方が楽でいいですね。

 

弁 そううまい話ばかりではありませんよ。この「特別口座」の株式は、「特別口座」に入れたままでは売買できません。
売買するためには、いったん証券会社で「一般口座」を開設していただいて、「特別口座」から「一般口座」に株式を振り替える必要があるんです。
特別口座から一般口座に振り替えるのには数日かかりますから、素早く売買できません。株主にとっては不利益ですよ。

 

分かりやすく図を書いてみましょう。
勝手にできる↓   自分で作る↓
自分の特別口座 → 自分の一般口座 → 売却

 

A ふーん。それじゃあ、タンス株のままだと売りたいタイミングで売れないってことなんですか?

 

弁 そうなんです。ですから、極力今のうちにタンス株を証券会社に持って行って口座を作っておいた方がいいですよ。
今巷に流れているCMは、そういったことを勧めているんです。
言い忘れましたが、手続の都合で、「特別口座」の株式は、株券電子化から約5週間、取引所市場にて売却できない期間が発生するとの話です。
又、多くの証券会社は、株券の預託期限を平成20年11月末から12月中旬限りとしていますので、株券預託はお早めに。

 

A いずれにしても、長期間売買できないというのは困る。早速、株券を証券会社に預けることにしよう。

 

他人名義のままだと危険

 

A そういえば、先月、資金繰りが悪くなった取引先からトヨダ株を買ってくれと言われて株券を時価で買ったんだが、株券を持っているだけで満足して、株主名簿の書換なんかしないまま放置しているのだが、まずいでしょうか?

 

弁 まずいですね。会社の株主名簿には取引先の名義が記載されているので、取引先の名義で「特別口座」が開設されてしまいますよ。
取引先が、株式を自分のものとして売却してしまうことも可能です。そんなことはしないと信じたいですが。

 

A じゃあ、株主名簿の書換を早速しようか。いやむしろ、証券会社に口座を作って登録しておくべきだね?

 

弁 その通りです。そうした方が手間がかからず、良いでしょう。
なお、電子化後の特別救済措置として、電子化から1年間、株券の呈示と電子化前の株式取得を裏付ける証拠(たとえば契約書)を提出すれば、前の名義人の協力がなくても自己名義の特別口座へ振り替えてもらえることができます。
しかし、1年を超えてしまうと、①名義人と共同で振替請求したり、②判決をとったり、③名義人の利益を害さない旨の証明をしたりしないといけないなど、大変厄介なことになります。

 

A ま、そんな大事にならないように、事前に手続はとっておきますよ。

 
株券を担保にしている場合 

 

A 最後に、取引先が支払いを滞らせていたので、取引先が持っている株券を質としてもらっているんだが、それは、どうなるんですか?

 

弁 株券の電子化により、お持ちの株券は紙切れになってしまいます。ですから、株式質についても「株券の占有」を失うことになるので、第三者対抗要件(他の債権者らに対して自らが質権者であることを対抗することができる力と理解してください。)が失われてしまいます。
きちんと手をうっておかないとその取引先が電子化後、事情を知らない第三者に質権を設定させてしまうこともあり得るのです。

 

A いやー、株券の電子化って気をつけていないと損するかもしれないんですね。勉強になりました。ありがとうございます。

新判例:悪戯事故につき、保険金請求者側に「偶然の」事故であることの立証を要求

(事案)
車愛好家の原告が、自宅マンション半地下駐車場に駐車中の高級車が落書傷をつけられたと、876万6,666円を求めて訴えを提起した事案。

 

(判決の概要)
裁判所は、落書傷が偶然な事故によるものとするには「合理的な疑いを払拭することができない」として、原告の請求を棄却した。
3人の若者との口論が落書傷の発端との主張につき、その若者達が塗装スプレーや「刃物などの道具を用意して犯行に臨んだ」とは考えにくく、事故現場は地下鉄出口の近くで、コンビニ店も近く、犯行が人目につく可能性が高い、落書傷発見時の供述等に不自然さが多々ある等、事故の偶然性を認める証拠がないとの理由で、原告の請求を棄却した。

 

(コメント)
被保険者等の故意を認めたのではなく、
偶然性がないことを認めて請求棄却した事例であり、その意味で貴重です。

被保険者等の故意を立証することに比べると
保険会社の負担はかなり小さくなるものと言えましょう。

一見、先の最高裁判決と矛盾しているようにも見えますが、
東京地裁の判例ということもあり、一定の実務的影響があると思います。

会社に与えた損害と保証

従業員に入社させる際、我が社では、社員から、「会社に損害を与えた場合には損害賠償責任を負担する。」という念書を作成し、両親を連帯保証人として署名してもらっています。
今般、入社歴20年の社員が身勝手な判断をして会社に大損害を与えたので、両親に責任追及しようと思っていますが、問題は無いでしょうか?

1 結論
連帯保証債務につき両親の同意がない限り、両親からは払ってもらえないことになります。但し、上記念書を3年ごとに取り付けている場合には、金額は制限されますが、払ってもらえます。

 

2 理由
身元保証法では、
身元保証の存続期間の上限を5年に定めています。
しかも、きちんと5年間と定めておかないと3年に制限されてしまいます。

 

本件では、入社歴20年の社員ということになりますから、
上限を5年と定めていても、保証責任を追及できないということになります。

 

したがって、社員からは、3年ごと乃至5年ごとに念書を差入させることが必要となります。

 

なお、上記のような期間の問題がクリアされたとしても、
損害額の一部しか請求できない場合もありますので、
予め理解しておく必要があります(一切の事情を考慮して裁判所が決めます。)。

搭乗者傷害条項で救済される事例(新しい最高裁判決)

(事案)
Aは、平成14年12月18日午後9時50分ころ、
高速道路で、普通乗用自動車を運転中、運転操作を誤って、
車両を中央分離帯のガードレールに衝突させるなどし、
車両は、走行不能になり、走行車線と追越車線とにまたがった状態で停止した。
その付近には街路灯等がなく、暗かった。
Aは、すぐに本件車両を降り、小走りで走行車線を横切って道路左側の路肩付近に避難したが、
その直後に本件車両と道路左側の路肩との間を通過した後続の大型貨物自動車に接触、
衝突されて転倒し、
更に同車の後方から走行してきた大型貨物自動車によりれき過されて死亡した。
運転手の遺族が、保険会社に対し、自家用自動車保険契約の搭乗者傷害条項に基づいて死亡保険金の支払を請求した。

 

(判決の要旨)
以上の事案につき、最高裁(平成19年5月29日 判例時報1989号131頁)は、
搭乗者傷害条項に基づく保険金支払の請求を認めました。
要するに、車に乗っていることが必須の条件ではなく、運行起因事故と死亡との間とに相当因果関係がある場合は、広く被保険者を保護するべきという結論です。
事故後に降りた状況が重要ということになります。

 

(判決)
本件搭乗者傷害条項によれば、保険金は、「被保険自動車の正規の乗車装置等に搭乗中の者」(被保険者)が、「被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故(運行起因事故)により身体に傷害を被り、その直接の結果として死亡した場合」に支払われることになっている。
Aは、被保険自動車である本件車両を運転中、運転操作を誤り本件自損事故を起こしたというのであるから、Aは被保険者に、本件自損事故は運行起因事故にそれぞれ該当する。
そして、①Aは、本件自損事故により、本件車両内にとどまっていれば後続車の衝突等により身体の損傷を受けかねない切迫した危険にさらされ、その危険を避けるために車外に避難せざるを得ない状況に置かれたこと、②Aの避難行動は、避難経路も含めて上記危険にさらされた者の行動として極めて自然なものであったと認められること、③上記れき過が本件自損事故と時間的にも場所的にも近接して生じていることから判断しても、Aにおいて上記避難行動とは異なる行動を採ることを期待することはできなかった。そうすると、運行起因事故である本件自損事故とAのれき過による死亡との間には相当因果関係があると認められ、Aは運行起因事故である本件自損事故により負傷し、死亡したものと解するのが相当である。

トラック運転手と休憩時間

トラック運転手に対して与えなければならない休憩時間について教えて下さい。

 

1 休憩時間の原則
まず、トラック運転手に限らず、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上、の休憩時間を与えなければなりません。

 

2 いつ休憩を与えればいいか
始業から終業までの間に任意の時間で入れられます(労基法43条1項)。分割も制限されていません

 

3 休憩時間の一斉付与の原則は除外される
運送業については、休憩時間の一斉付与の原則が排除されています(労基規則31条)。
したがって、事業場全体で何時から何時と定める必要もありません。

 

4 手待ち時間を休憩時間に充てられるか
使用者の指揮監督にあり、労働者が自由に使えない時間は、労働時間です。
したがって、トラック運転手の手待ち時間も又労働者が自由に使えないので労働時間にあたります。

 

逆に、指揮監督から外れ、労働者が自由に使える時間は休憩時間です(昭39.10.6基収第6051号)。
したがって、
たとえば、積荷の到着間隔が確実に30分を超えるような場合、トラック運転手に対し、
「何時から何時までを休憩時間とします。何時には職場に戻って、積荷が届いたらすぐ作業できるよう待機してください」など指示を出し、
事前に休憩時間を指定すれば、
その時間を労働時問から除外することも可能になります。
しかし、後から、待機時間の一部を休憩時間にするような対応はできません。

代表取締役の解任

私が代表取締役を務める会社は、私と共同経営者が立ち上げた会社で、取締役が4名います。最近、共同経営者との関係が悪化し、代表取締役を解任すると言われました。
私側につく取締役は1人います(つまり、私とその取締役とで2名です。)。他方、共同経営者側の取締役は2名です。
そうすると、共同経営者が私を解任することができないと思うのですが、どうですか?

1 特別利害関係
決議につき、特別の利害関係ある取締役は、決議の公正を期するため、議決に加わることができません(会社法369条2項)。
代表取締役の解任決議において、現代表取締役は、特別利害関係人ですから、この議決に加わることができません。
したがって、共同経営者側が2名、当方が1名で代表取締役決議で解任されてしまいます。

 

2 新たな代表取締役について
もっとも、代表取締役が解任されても、新たな代表取締役を選任する決議が通らなければ、従前の取締役がなお代表取締役として振る舞うことは可能です(会社法351条)。
そして、新たな代表取締役の選任決議については、元代表取締役も加わることができますから、新たな代表取締役の選任決議において、過半数議決をさせなければ、なお、代表取締役として暫く振る舞うことが可能です。

 

3 終局的には、株主総会で決着がつくことになるでしょう。

新判例 飲酒免責

新判例 飲酒免責

弁護士 片岡憲明が寺澤綜合法律事務所に所属していた時から担当していた事件で1審勝訴の判決を頂きましたので、ご報告致します。

 

名古屋地裁平成20年2月22日判決(控訴中)
自動車保険ジャーナル1745号p13

 

 

① 原告が環状線で被保険車両を運転・走行中、側壁に衝突の単独事故を起こし保険金請求する事案につき、警察が飲酒運転としなかったのは、飲酒検知をしなかったからで、積載車の手配を依頼され、原告を病院へも送った業者は原告が「相当程度に酔った様子」と感じ、医師も原告に酒臭を感じ、打撲はないのに「うつむいてぐったりした様子」を認めている等から、原告の「酒によった状態が居眠り運転の原因となっている」とし、車両保険金請求には酒酔い免責を適用した。

 
② 文書、調査員への飲酒の事実の不実申告は、調査等の妨げとなり、その妨げを原告が「認識していたことを要する」が、原告にはこの点が「認められない」等から対物賠償保険金の支払いを認容した。

 

 

①については、警察が臨場したにもかかわらず、原告が検挙されなかった点は当方に不利な事実と主張されましたが、その他の間接事実から当方の勝訴となりました。

 
②については、裁判官のバランス感覚によるものと思います。

 

 

なお、平成20年8月22日の控訴審判決でも、①について勝訴判決を頂きました。

競売による建物のオーナーチェンジ

建物を借りていたところ、大家さんが破産してしまいました。
建物には抵当がついていたので、競売されましたが、落札をした不動産業者から、即刻立ち退いて欲しいと言われています。
私としましては、敷金も納めていることですし、居座ることができたらいいと思っています。
何とかならないでしょうか?

1 結論
抵当権が設定されるよりも前に建物を借りていた場合
退去する必要はありません。

 

抵当権が設定された後に建物を借りた場合
→退去しなければなりませんが、6か月間の明渡猶予がなされます。

 

2 説明
①建物を借りた時期が抵当権設定より前だと、賃貸借が優先します(対抗できるといいます)。
これに対し、②抵当権設定より後だと、賃貸借が劣後します。
このように、抵当権設定時期というのは非常に重要なのです。
①の場合は、そのまま借り続けることもできますし、新しい賃貸人に対し、敷金の返還を請求することもできます。
②の場合も、すぐに退去しなければならないわけではありません。
民法395条1項には、建物買受人の買い受けの時点から6か月を経過するまでは、建物を買受人に引き渡さなくても良いと規定されています。ただ、賃料相当額の金銭の支払いを賃借人が免れる道理はありませんから、無料で建物に住める訳ではないことに注意しましょう。

 

3 活用
以上のように、建物賃借は危険が伴います。
大家に抵当権が設定されているかとかローンを返し終わっているか確認してから入居する必要があります。
また、競売物件を購入する場合、抵当権に劣後する賃借人がいる場合は、退去させることが比較的容易であるため比較的割安であることもあります。

顧客名簿の管理は大事!

落合商事は、薬局に業務用コンピューターを販売する会社です。
落合商事で営業として働いていた山崎氏は、落合商事から預かった顧客名簿を見ながら得意先に営業していました。
やがてトップセールスマンになった山崎氏は、落合商事から同業他社のツバメ電子に引き抜かれました。
山崎氏はツバメ電子に引き抜かれるにあたって、落合商事の得意先全員に挨拶状を出し、その中でちゃっかりツバメ電子の宣伝までしましたが、こんなことは落合商事の顧客名簿を持って行かなければできないことです。
恩を仇で返すようなやり方で許せませんので、山崎氏に対して法的手続きをとって頂けませんか?

顧客名簿が営業秘密としてきちんと管理されていたならば、比較的損害賠償を請求しやすいと言えます。

 

1 営業秘密なのか?
不正に取得した「営業秘密」を使用した場合、不正競争防止法2条1項などによって、使用者は損害賠償責任を負います。
では、顧客名簿は「営業秘密」にあたるのでしょうか。

 

2 管理がポイントに 
「営業秘密」は、秘密として管理されているものであることが必要です。秘密として管理されていないと、営業秘密にあたらないと判断されてしまいます。
したがって、どういう管理をすべきかが重要な問題になります。
判例は、はっきりした答えを出していませんが、一般的には、営業秘密が、従業員や部外者から一見して分かる程度に秘密管理状態に置かれていることが必要だと判断しています。

 
たとえば、当該営業秘密を記載した書類が会社内の机に無造作に放置してあるような場合は、従業員全員が見ることができるので、秘密とは言い難いでしょう。営業秘密にアクセスできる従業員が限定されていなければなりません
また、従業員と秘密保持契約を締結せずにいるよりも、きちんと秘密保持契約を締結していた方が、秘密にしていたと言えます。就業規則にも従業員に対し顧客名簿の持ち出しを禁止しておけば、なお良いでしょう。

 
さらに、顧客名簿に何も書かれていないよりも、部外秘と記載されていた方が、秘密にしていたと言えます。
つまり、①アクセス者の限定、②従業員との契約(含 就業規則)、③秘密であることを顧客名簿に記載することなどがポイントです。

 

3 日頃の対策 
顧客名簿等の重要書類は、以上の点を意識して管理して頂きたいと思います。
また、被害を未然に防ぐためには、営業秘密を従業員に開示する際に、当該従業員が必要とする部分に限って開示する等の、手立てを講じておくべきでしょう。

新判例 被害者側の過失

A運転の自動二輪車とパトカーとが衝突し、
自動二輪車に同乗していたBが死亡した交通事故につき、
Bの相続人である被上告人らが、パトカーの運行供用者である上告人に対し、
自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償を請求する事案。
ちなみにABは暴走族の仲間同士です。

以上のような事案につき、

 

最高裁(平成20年7月4日判決)は、
Bの損害賠償請求につき、Aの過失を斟酌するという
判断を下しました。

いわゆる被害者側の過失の法理
身分上生活関係上一体(幼児の監督者である父母等)」の場合と
財布が一つ(夫婦等)」の場合以外に
認めてきましたが、
上記のような類型も加えたものといえます。

 

判例をチェック

 

(抜粋)
以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば,
本件運転行為は,BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず,
上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。
したがって,上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては,
公平の見地に照らし,
本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解すべきである。

民事再生手続をとれますか?

私の会社は、20年続いた会社で従業員が20名います。
不動産投資の失敗により、銀行や信用金庫からの借入金が満足に返済できず、早晩手形の不渡りを出してしまいそうです。
破産も考えましたが、従業員が不憫なので何とか会社を存続させたいと思います。
民事再生手続はとれないでしょうか?

民事再生手続は再建型の手続と言われています。

 

民事再生手続にもいろいろな手法があり、大きく分けると、
自力再建型
スポンサー型
があります。

 

自力再建型
は、不良債権が処理できれば収益をあげ続けていくことができる場合に
選択できます。スポンサーが見つからない場合にやむなく①をとることもあります。

 

スポンサー型
施設に魅力があったり、技術力に確固たるものがある場合には、スポンサーが
現れる場合もあります。

 

自力再建型は、再生手続中の資金繰りをいかに確保していくか、
という重大な問題があります。
信用を失っているからです。

 

これに対し、スポンサー型は、スポンサーがバックにつき、信用を得ることができますので、
再生も比較的容易となります。

 

その意味で再生手続を開始する前に、水面下でのスポンサー交渉は不可欠なのです。

最新の道路交通法改正

平成20年6月に道路交通法が改正されました。シートベルトの点について改正があったようですが、正確なところは分かりません。教えて下さい。

①シートベルトの後部座席での着用義務

自動車の運転者は、全ての座席について、
シートベルトを装着しない者を乗車させて自動車を運転してはいけません。

 

違反の場合 : 違反点数1点(当面は、高速道路及び自動車専用道路に限る。)
※罰則・反則金はございません(平成20年6月30日現在)。
※後部座席のシートベルト装着義務違反は、
高速道路及び自動車専用道路に限り、
違反点の対象です。

 

②75歳以上の者及び聴覚障害者の保護
75歳以上の者及び聴覚障害者は、
普通自動車を運転する場合、
「高齢運転者標識」、「聴覚障害者標識」
を表示しなければなりません。

 

また、これらの標識を表示した普通自動車に対する幅寄せ等が禁止されています。
対象者が高齢運転者標識・障害者運転者標識を表示しなかった場合

 

2万円以下の罰金又は科料
反則金は4千円
違反点数1点です。

 

③普通自転車の歩道通行可能要件の明確化

こういった場合、自転車も歩道を通行できます。

道路標識等で指定(歩道通行可)された場合
運転者が児童・幼児(13歳未満の子ども)の場合
運転者が70歳以上の場合
運転者が身体に障害のある場合
車道又は交通の状況からみてやむを得ない場合

主要な点は以上です。外にも細かい改正があります。

重要なのは、後部座席での着用義務です。
高速道路では必ず忘れないように心がけたいものです。

 

条文
第七十一条の三  自動車(大型自動二輪車及び普通自動二輪車を除く。以下この条において同じ。)の運転者は、道路運送車両法第三章 及びこれに基づく命令の規定により当該自動車に備えなければならないこととされている座席ベルト(以下「座席ベルト」という。)を装着しないで自動車を運転してはならない。ただし、疾病のため座席ベルトを装着することが療養上適当でない者が自動車を運転するとき、緊急自動車の運転者が当該緊急自動車を運転するとき、その他政令で定めるやむを得ない理由があるときは、この限りでない。

 
2  自動車の運転者は、座席ベルトを装着しない者を運転者席以外の乗車装置(当該乗車装置につき座席ベルトを備えなければならないこととされているものに限る。以下この項において同じ。)に乗車させて自動車を運転してはならない。ただし、幼児(適切に座席ベルトを装着させるに足りる座高を有するものを除く。以下この条において同じ。)を当該乗車装置に乗車させるとき、疾病のため座席ベルトを装着させることが療養上適当でない者を当該乗車装置に乗車させるとき、その他政令で定めるやむを得ない理由があるときは、この限りでない。

 
3  自動車の運転者は、幼児用補助装置(幼児を乗車させる際座席ベルトに代わる機能を果たさせるため座席に固定して用いる補助装置であつて、道路運送車両法第三章 及びこれに基づく命令の規定に適合し、かつ、幼児の発育の程度に応じた形状を有するものをいう。以下この項において同じ。)を使用しない幼児を乗車させて自動車を運転してはならない。ただし、疾病のため幼児用補助装置を使用させることが療養上適当でない幼児を乗車させるとき、その他政令で定めるやむを得ない理由があるときは、この限りでない。

診療情報の研究利用

病院内で、部外者のいない研究会を開き、実際の症例を発表してもよろしいですか?
また、学会発表やホームページへの掲載はどうしたらよいですか?

まずは、院内において、個人情報をそのようなことに使用する旨
公表しておく必要があります。
これは、利用目的の明示です。

 

その上で、
第三者提供は原則として本人の同意無くしては不可ですので、
院内での利用はともかく、
学会発表やホームページへの掲載については、
患者さん本人の同意を得るか、
個人の識別情報を外して公表する必要があります。

 

外すべき個人の識別情報についてですが、
氏名・住所はもちろん、入院番号も記載不可です。
なお、
疾患の発生場所については県単位なら可。
臨床経過のために年月日を書くことは特定につながらなければ可。
顔写真は目は隠す。目だけなら、顔全体が分からないようにすれば可。
です。

 

個人情報保護法施行に伴って厚生労働省は病院向けのガイドラインを作成していますので参考にして下さい。

ほったらかしにした代金

龍神株式会社は、 建材の販売、建築工事の下請を業としている会社です。 以前、大工の立浪さんに頼まれて建材を販売したり(50万円) 工事を下請したりしたことがありましたが(30万円) 立浪さんからは、資金繰りが悪いので待って欲しい、 と懇願されました。 龍神はとりあえず毎月請求書を送っていましたが、 立浪さんからは音沙汰がなく3年程そのままにしていました。
ある日、龍神の社員が帰宅途中、
高級外車に乗る立浪さんを目撃し、問い詰めたところ、
立浪さんはもう払わなくていいはずだ、というのです。
立浪さんには、
龍神から貸付金(10万円)もあるのにひどい話です。
もしかして時効なんですか。

時効は一律10年では?と思われている方も多いのではないでしょうか。
実は、時効は取引によって様々な期間と定められています。

 

たとえば、龍神の立浪さんに対する債権は、建材の販売代金(2年)、
工事の下請代金(3年)、会社からの貸付金(5年)です。
したがって、本件では、建材の販売代金の回収は無理なのです
(但し、後述の債務承認の方法なら回収できます。)

 
それにしても、龍神は立浪さんに毎月請求書を送っていたはずです。
これは全く意味が無かったのでしょうか。

 
結論から言うと、
普通の請求書を何枚送っても、法律上時効中断にはなりません。
このように請求書を送ることは、「催告」といいますが、
催告には、時効を中断するような効果はありません。
せいぜい時効を僅かに先送りにする程度の効果しかないのです。
たとえば、時効前に立浪さんに到着するよう内容証明で請求書を送付し、
なおかつそれから6ヶ月以内に龍神が裁判を起こさないと、時効が到来してしまうのです。

 
上記の方法では、龍神も金と手間がかかり大変です。
もっと容易に時効を中断させる方法は、「債務の承認」です。
これは、文書・口頭を問わず、債務者から債権の存在を認める言動を引き出すこととお考え下さい。
例えば、立浪さんに一部でも債務を払ってもらったり、いずれ払うから、と言わせれば、
債務の承認となり、時効が中断するのです。
さらに、時効がたとえ到来してしまったとしても、
債務者による債務承認があれば、時効を防げる場合もありますので、
諦めずに対応して下さい。

 

債務者にどういうことをしてもらえばいいか、
その証拠をどうやってとっておけばいいかについては
法律家にご相談下さったほうがよいです。
もちろん、最も重要なのは時効前に相談することです。
早めのご相談をお願いします。

仕入れ先の倒産

私の会社は、ある会社から
商品を毎月仕入れ、販売していました。
ところが、
仕入先の会社が突然倒産し、
破産申立代理人と名乗る弁護士から
商品の代金100万円を支払えと請求が来ました。
私の会社は、
いつも人気のない売れ残り商品を仕入先に返品していましたし、
代金の値引き交渉をしていましたので、
額面通り100万円を支払うのは納得がいきません。
100万円の支払いに応じなければいけないのですか?

結論から申し上げると、
100万円の支払いに応じる必要はありませんが、
どれくらい減額できるかは、交渉次第だと言えます。

 

まず、代金の値引き交渉についてですが、
毎度値引き交渉をしていたなら、
仕入先とは売買代金額が決められていなかったことになります。
したがって、額面100万円の請求にすんなり応じる必要はありません。

 
次に、返品ですが、これは難しいといえます。
倒産会社がいらない商品の返品に応じることは、まずありません。
返品在庫を抱えても売却先はありませんし、
仮にあっても買い叩かれるのがオチだからです。

 
比較的堂々と返品が要求できるのは、「委託販売」の場合です。
薬品の売買では「委託販売」の形式が多いのですが、
これは、小売業者が委託を受けて卸売業者の商品を店舗で販売するという契約です。
卸売業者からすると、小売業者の店舗を間借りしているようなイメージです。小売業者は卸売業者から商品を預かっているに過ぎないので、返品を要求できるのです。

 
したがって、委託販売の契約書があれば
これを提示して商品の返品を要求できることになります。
仮に倒産会社(又は破産管財人)が返品を拒む場合には、
代金を大幅に減額するよう交渉すれば良いと思います。

 

「委託販売」の契約書を取り交わしていない場合は、
実態が「委託販売」だと主張しても主張が通らないかもしれません。
取引の実情に合っていない請求が来た場合には、
とりあえずは1度ご相談頂いた方が無難であろうと思います。

取締役の責任と時効

私達は、家族3人(父、弟、私)で株式会社を立ち上げ、 設立20年で会社の規模も20人以上となりました。
ずっと父が代表取締役で弟と私が平取締役でしたが、父が引退することになり、会社の帳簿を私が引き継ぐことになりました。
そうしたところ、弟が8年前から会社の金を遣い込んでいることが分かりました。
父に聴いたところ、5年前には遣い込みの事実を知ったが、息子かわいさに見て見ぬふりをしてしまったとのことでした。
私は会社の責任者として弟に対して責任追及をせざるを得ませんが、なにぶん昔の話なので、責任追及できるか分かりません。
教えて下さい。

まず、会社の金を遣い込んだということですから、
弟さんには会社に対する損害賠償責任があります。
しかし、そもそも5年以上経過しているので、
時効が来ていないか問題となります。
今年、この問題について最高裁が判断を下しました。

 
○判決内容
要するに、取締役の責任(旧法266条1項5号)の時効期間は10年
とするものです。
一般に商行為の時効は5年とされていますが、
5年というのはあっという間に過ぎてしまいます。
特に、取締役は会社内部にあって自分の責任を隠すことがあります。
結局、弟さんに対して責任追及ができますので、
きちんと会社に返金してもらうべきでしょう。
なお、弟さんに対し訴訟を提起する場合、会社の監査役が会社の代表者となりますので留意して下さい。

外国人から不動産を購入する場合の注意点

外国人から不動産購入には本人確認の問題や税務上の問題が
あることを認識する必要があります。

 

外国人による日本の不動産に対する投資が
ブームになっていますが、
外国人も高値で売り抜けようとして売却をする場面が増えることが予想されます。

 

外国人などの海外居住者や海外法人から不動産を購入する場合、
まず、本人確認と登記のための必要書類を確実に取り付けるようにしなければなりません。
次に、
買主側には、源泉徴収義務(売買代金の10%)があることを
忘れないようにしなければなりません。

 

すなわち、海外居住者や外国法人が日本国内の不動産を譲渡した場合
買主はその譲渡代金の10%を売主に渡さないで、
源泉徴収して翌月10日までに税務署に納付する義務があります。
この源泉徴収の義務は購入者側にあります。
この時、源泉徴収を忘れると後から追徴されることになりますので、
それを売主から取り返す必要が出てきます。
今後このようなトラブルが多発することも予想されますので、
十分な注意が必要です。
なお、海外居住者とは外国人とは限りません。
日本人で海外に1年以上の長期勤務をしている人の場合も該当します。
但し、個人が居住用に譲り受けた1億円以下の土地建物については
源泉徴収する必要はありません。

不動産の売却先を業者に探してもらう時は!

保有不動産を売却する時には、
不動産業者との間で「媒介契約」を締結します。

 

「媒介契約」とは、簡単に言えば、
不動産を購入する客を捜してきて売買契約が成立するよう
仲介する契約を言います。

 

一般に、不動産の媒介契約には、3種類あります。
専属専任媒介契約、専任媒介契約、一般媒介契約
いずれかを依頼者が選択することができます。

 

①専属専任媒介契約
特定の不動産業者に仲介を依頼し、
他の不動産業者に重ねて依頼することができない契約です。
依頼者は、自分で購入希望者を見つけることはできません
②専任媒介契約
①とほぼ同じですが、
自分で購入希望者を見つけることはできます。

 

③一般媒介契約
複数の不動産業者に重ねて仲介を依頼でき
自分で購入希望者を見つけることもできます。

 

①に行くほど不動産業者が真剣に購入者を見つけてくれるイメージでしょうか。
逆に①に行くほど依頼者の拘束は大きく
安易に解除できなくなるわけです。
(不動産業者の方の豆知識)
なお、媒介契約締結の際には、
消費者保護の点から
国土交通省は、住宅宅地審議会の答申をふまえ
「標準媒介契約約款」を作成し、告示しています。
宅地建物取引業者が媒介契約書を作成する場合においては、
宅地建物取引業法施行規則第15条の7第4号により、
「標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別」を
契約書に記載しなければならないことになっています。
宅地建物取引業者が媒介契約書を作成する場合に
「標準媒介契約約款」を使用しないことも可能です。
→契約をチェックする必要があります。

契約書類の重要性

今までの苦労が実って、
大企業に商品を納めることができるようになりました。
その企業からは、取引基本契約書が渡され、
まずは契約書にサインしてほしいと言われました。
大企業ですから、問題ないと思って
余り条項を読まないでサインしてしまいましたが、
ちょっと不安です。大丈夫でしょうか?

大企業だから、大丈夫、というのは
必ずしも正しくはありません。
むしろ、大企業は様々なリスクにさらされていますから、
一般企業よりも契約条項にはシビアです。

 

分かりやすい例でいうと、裁判管轄です。

相手方企業の本社を管轄する裁判所になっているのではないでしょうか?

裁判になると、

遠隔地まで出向く費用がかかります。

 

共同開発で発明をした場合の、
特許権や実用新案権の帰属はどうなっているでしょうか?

自社の技術の核心部分を守る
営業秘密は、大企業側による無断利用から守られていますか?

 

よくよく読むと
自社に不利益且つ不公平な条項が盛り込まれています。

 

多くが紛争になった後で私達弁護士の下に持ち込まれますが、
後の祭りということも多いです。

 

ただの言葉に過ぎませんが、
その言葉が数千万円の不利益を産むとしたら
悔やんでも悔やみきれません。

 

契約締結に際しては、
特に金額の大きな契約の場合は、
専門家の助言を得るのが、大きな節約となります。

上場していない株式は譲渡できますか?

私は、ある会社の取締役を務めている時に、
会社の株式を100株持っていました。
このたび、取締役を退任することになったのですが、
会社は株式を引き取ろうとしません。
この会社は上場していませんが、株式を譲渡できますか?

まず、株式は自由に譲渡できるのが原則です(会社法127条)。
もっとも、会社の定款で
「株式の譲渡による取得については会社の承認を要する。」
などと、譲渡制限がうたってある場合、
会社(取締役会乃至株主総会)の承認が必要となります。

 
譲渡制限がある場合、
株式の譲渡ができなくなるわけではありません。
単に、
譲渡の際、承認が必要なだけです。
会社が承認しない時は、
会社が買い取るか、会社が指定する人物が買い取ることに
なります(会社法140条)。
会社が責任を持って譲渡先を決めない場合は、
あなたが譲渡したいと思っている人に譲渡することができることになります。

お金を貸すときにはご注意~期限の利益喪失約款

友人に100万円貸しました。私に月々5万円ずつ返していくという約束をし、契約書まで作成しました。契約書には、平成20年3月から各月15日までに5万円ずつ100万円を返済するとだけ書いてありました。
その後、友人は、最初の返済日である2月15日から返済を怠り、知らん顔をしています。
約束が違うので、友人に対して、すぐに100万円全額を返済してもらいたいと思っていますが、このような請求はできるでしょうか。

契約書には、毎月15日までに5万円ずつ返済されれば良い、と定めていますから、1回目から支払を怠っても、友人に対して、月々5万円ずつしか請求できません。これを「期限の利益」と言います。100万円を支払う義務があるのだけれど、それを先延ばしにしてもらえれば債務者にとって利益です。それで「期限の利益」というのです。
この事案では、裁判に訴えても、月々5万円ずつ支払えという判決しかもらえません。
では、どういう対応をすればよかったのでしょう?

 
対応その1
そもそも、契約書に分割払いの条項を書かなければ問題は発生しませんでした。
事実上、友人に分割払いをしてもらって、契約書に書かなければいいのです。

 
対応その2
友人が分割払いの条項を入れて欲しいと強く言った場合は、期限の利益喪失条項というものを入れておけば良いです。
この条項は、例えば、「2回以上、支払が期限を徒過するようなことがあれば、残金を一括して支払う。」といった条項です。
こういった条項を契約書に盛り込んでおけば、支払を怠った友人に対してすぐに残金100万円を返してくれと請求できたのです。
市販の契約書式などには何気なく載っている条項ですが、非常に大事です。お金を貸す時は、必ず入れるようにして下さい。
なお、保証人を沢山つけることも大事です。会社に金を貸すなら代表者、親族を保証人にすることを忘れないようにして下さい。 

従業員が交通事故を起こしたら・・・

従業員にマイカー通勤を認めていたところ、
その従業員が帰宅途中、おじいさんと接触事故を起こし、
おじいさんに大怪我をさせてしまいました。
従業員はマイカーに任意保険をかけていませんでした。
おじいさんから会社も被害弁償に応じるよう言われていますが、
対応する必要がありますか?

無関係の会社が払う必要は全く無い筈!と思われるかもしれません。
しかし、会社が従業員にマイカーを業務に使うことまで認めていた場合は、責任を免れません。
その場合、社有車と使用実態が殆ど変わらないからです。
では、マイカーの使用が通勤に限定されていた場合はどうでしょうか。
残念なことに、裁判例ははっきりしないというのが実情です。
原則として、マイカー通勤の事故について、会社の責任は否定されています。
しかし、場合によっては、肯定されます

 
福岡地裁飯塚支部では、
会社員のマイカー通勤途上の事故につき、
会社も社員によるマイカー通勤を容認し、通勤手当も支給しているといった理由から、
会社の責任を肯定する旨の判決が下されました。

 
他方、別の裁判所では、
あくまでも電車・バスといった公共交通機関による通勤が基本であり、マイカー通勤が例外であって、通勤手当としても、定期代代わりの通勤手当が支給されていたにすぎない事案で、
会社が積極的にマイカー通勤を認めていないという理由により、
会社の責任を否定する判決が下されています。

 
積極的にマイカー通勤を認めていないなら会社の責任が否定されやすいということでしょう。

 
なお、規則でマイカー通勤を全面禁止していても、事実上黙認している場合には、会社が責任を負うとされた事例がありますので、注意が必要です。

 
以上のように会社が責任を負う可能性がゼロではない以上、次の対策を講じる必要があるでしょう。
①自動車通勤を許す場合には、マイカーに任意保険をかけるよう指導を徹底する。
②会社がマイカーの保険加入の有無をチェックする。
従業員にしてみても、任意保険に加入していなかったために
莫大な損害賠償責任を一生背負い続けていくことになるのですから、
任意保険への加入強制は従業員のためにもなるのです。

いきなり取引を中止されてしまった

随分昔に取引基本契約書を締結し、長年製品を納めてきた会社が、突然、私の会社との取引を中止すると一方的に通知してきました。一体、どうしたらいいのでしょうか?

まずは、なぜ取引を中止されたか確認する必要があります。
中止の理由がない、または理由として正当とは思えない場合には、突然の中止は不当であり、中止を決めた会社に対して、損害賠償請求ができる可能性もあります。また、弁護士を通じて取引の継続を交渉してみる余地もあります。
諦めないで、ご相談して頂きたいと思います。

保険会社の調査に対する協力義務

保険契約者が、保険会社から依頼した調査員に対して、回答をはぐらかしたり、嘘をついたりしています。どのように対処すればよいのでしょうか。

保険事故発生の偶然性の立証責任は、最高裁判決により、保険会社側にあることが明らかになりました(盗難については微妙ですが。)。
したがって、保険会社による調査は今まで以上に厳格に行う必要があります。
にもかかわらず、契約者が調査に非協力的では、保険会社は打つ手がありません。
近時、名古屋高裁で、調査協力義務違反による支払免責を認めた裁判例が下されました。したがって、保険会社としては、契約者に対し、調査への協力を誠実に依頼し、それでも拒絶された場合は、拒絶事実を記録し、弁護士にご相談されると良いと思います。

 

参考判例
自保ジャーナル(平成20年3月13日)

 
事実の要旨
甲保険会社と自動車保険契約しているXは、平成17年5月13日午後6時59分ころ、
三重県下で路外逸脱し、海中に転落して新車価額保険金400万円を求めて訴えを
提起した。
1審裁判所は、305万円の保険金支払いを認容した。
甲保険会社控訴の2審は、Xは「約款の一般条項14条(9項)に違反する」として、
1審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。

 
判旨の抜粋
ウ Xの上記12)アの説明内容は、上記鑑定結果と大きく食い違っている。
即ち、
①本件車両の速度の点では、
クリープ走行程度(速度はほとんど出ていない。)なのか、
時速約19km/時間程度なのか、
②進行方向の点では、運河に向かって左ヘハンドルを切って進行したのか
(この場合、運河への落下は運転席側からとなる。)、
本件車両の前部を北に向け、護岸道路を左に逸脱して運河に転落したのか
(この場合、同運河への転落は助手席側からとなる。)
の点において、大きく食い違うことになる。
③ さらに、本件車両は、横転しながら転落したものと推測されるものの、
Xは、この特徴的な転落状況を窺わせるような説明は何もしていない。
このように本件車両の運転(切り返し操作)中に本件事故に至ったのであるならば、
速度、進行方向などの基本的な客観的状況と一致しない説明がなされるということは
明らかに不自然であり、
転落態様について横転という特徴的な事柄に関して説明が欠けるということも
通常考えがたいところである。
したがつて、Xの上記(2アの説明内容も、
記憶どおりに正しく説明されていないものと認められ、
これは甲において、本件事故が保険事故であるか否か、
支払拒絶事由(Xの故意による事故)があるか否か検討するための
重要な事故態様に関するものであったということができる。
(6)以上(3)ないし(5)で検討のとおり、
Xの本件事故の態様、本件事故後の経緯や携帯電話に関する説明は、
いずれも甲において本件事故が
保険事故であるか否か、支払拒絶事由があるか否か検討するための
重要な事項に関する説明であるところ、
その説明内容は、いずれもXの記憶のとおり正しくなされてはいないと認められる。
このようなXの行為は、
本件保険契約約款の一般条項14条(9)に違反するものであって、
同条項15条1項により保険金の支払拒絶事由にあたるものと認められる。

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