国際取引(中国との売買契約の注意点)
当社は中国の杭州にある会社に精密機械を販売しましたが、代金を払ってもらえません。他方、上海の会社から、部品を購入していますが、不良品だったため代金を払っていませんが、相手方からは売買代金の支払請求をされています。 今後、裁判を起こしたり、起こされるリスクがあります。対応にあたり、注意すべき点を教えてください。
ご回答
グローバル化した昨今、外国企業との間で、製品や部品などを売買することは、中小企業であっても、珍しくなくなりました。
日本と中国との間の取引は、日本国内の企業同士の取引とかなり相違点があります。思わぬ落とし穴があったりしますので、十分な注意と検討が必要です。
私の事務所でも、中国との海外取引について相談を受け、あるいは中国の弁護士に対応を依頼してきました。
今回の事例は、海外取引で起こりやすい典型的な紛争です。
紛争解決において注意点が2つあります。
1つ目は、日本の裁判所で訴訟ができるか(裁判管轄)、2つ目は、どこの国の法律が適用されるか(準拠法)、です。
日本の裁判所で訴訟ができないならば、中国で訴訟を提起するほかありません。また、日本で裁判ができるとしても、どこの国の法律が適用されるか、も重要な影響があります。有利不利が変わるからです。日本で裁判するのに日本法を適用しないことがあるのか、と意外に思われるかもしれませんが、日本の裁判所で外国の法律が適用されて判決が下される場合もあります。
今回の中国との取引を前提に説明します。
まず、このような国際取引をする時は、売買契約書を作成することが絶対必要です。裁判管轄や準拠法についても、契約書に盛りこむのが一般的です。
皆さんはおそらく、売買契約書に、管轄は名古屋地方裁判所にして、準拠法は日本法にする、と書けば問題がないと思われるでしょうが、ことは簡単ではありません。
杭州の会社への売買代金請求の訴訟を、名古屋地方裁判所に起こしたらどうなるでしょうか。訴状等の送達に時間は掛かりますが、希望通りの判決はもらえますが、この判決で中国の会社の資産を強制執行することはできません。なぜなら、日本の判決は中国において効力が認められていないからです。日本と中国では、相互に判決の承認・執行の要件とされる『相互の保証』が取り交わされていないからです。そのため売買契約書には、紛争解決のために、中国国際経済貿易仲裁委員会○○支部の仲裁によるとし、準拠法は日本法とする(中国法を選択することもあります)、との条項にしています。中国の裁判所は信頼性に不安があるからです。
反対に、中国から買った製品の代金を支払わなかった場合、裁判管轄は名古屋地方裁判所にして、準拠法は日本法にすることは、有利と考えられます。なお、中国企業から中国の裁判所へ訴訟が起こされ判決が出ても、日本では無効ですから、強制執行されません。
月刊東海財界2019年7月号掲載