裁判員候補になりました。仕事が多忙という理由で断ることはできますか?
私は48歳で、大手商社の部長をして、多忙な毎日を送っています。最近、裁判所から、裁判員候補になったので裁判所まで来るよう連絡がきました。
まさか自分の所へ連絡が来るとは思っていませんでした。裁判には興味はありますが、多忙なので断りたいと思っていますが、可能ですか。
また、もし裁判員になったら、どのようなことをするのでしょうか。
ご回答
私は、もともと刑事事件には関心があり、若い頃は、多数の弁護をし、無罪を争う事件や、話題になった事件(大高緑地で起きたアベック殺人)も担当しました。しかし、裁判員裁判は、通常の裁判手続きとは違うし、多くの時間を取られるため、敬遠してきました。ところが、訳あって強盗致傷事件を弁護することになりました。
ご質問に対しては、私は、お忙しいとは思いますが、ぜひ時間を割いて裁判員を引き受けていただきたいと思います。
それでは、まず裁判員裁判について説明します。もともと、裁判は、検察官、弁護士、裁判官により行われてきましたが、諸外国の例にならい、我が国でも、司法制度改革の一環として、裁判員制度が平成21年5月から始まりました。
裁判員に選ばれる過程は複雑で、裁判員になれる確率はとても低いです。まず、裁判所が裁判員候補者となる人をくじで選び、裁判員候補者名簿を作ります。
具体的な裁判では、この候補者名簿の中からくじで、6人の裁判員と2人の補充裁裁判員が、選ばれます。私が担当した事件では、選任手続期日に25人前後が来られ、裁判官、検察官、弁護人と顔合わせをしました。
その後、辞退希望者に面接した上、裁判官が辞退の可否を判断します。おそらく、相談者の場合、仕事が多忙で、会社を休むことはできない、ということで、辞退は認められると思います。そこで残った方から、検察官と弁護人がそれぞれ5人まで不選任を請求し、不選任となった方を除いた中から、くじにより裁判員を決定します。
裁判員に選ばれると、裁判所へは通常3日か4日連日行くことになり、終日裁判所で、審理に立ち会います。ただ、裁判員にとって、刑事裁判手続きに参加できるということは、貴重な機会です。
裁判員の皆さんは、裁判や法律に関する知識がありませんので、裁判官、検察官、弁護人は、多くの時間を掛けて、裁判員に、短時間でかみ砕いて一から説明する努力をします。
今回、3人の弁護士が弁護に当たりましたが、裁判所にある判例検索システム(全国の裁判所で、過去に言い渡された判決の要点がデータベース化されています)を検索閲覧できたことが役立ちました。犯罪事実・情状がキーワードで細かく検索できるため、量刑(刑の重さ)基準が分かり、説得力を持って弁護できました。
担当事件では、検察官の求刑が懲役5年半のところ、情状酌量されて懲役3年、執行猶予5年という期待以上の判決で、大変な苦労が報われました。
月刊東海財界2020年10月号掲載