違約金の定め
車屋さんは売買契約書にある違約金条項によると、自動車税・リサイクル費用・手続費用等の合計30万円が違約金にあたるとして、1週間以内にこれを支払うように請求してきました。
キャンセルしたのですから、実際に自動車税・リサイクル費用等を車屋さんが負担しているわけではないのに、私は違約金条項に基づき、30万円を払わなければならないのでしょうか?
1. 結論
結論から言いますと、消費者契約法第9条第1号に基づき、上記違約金条項は無効であり、あなたの支払義務はありません。
2. 理由
消費者契約法第9条第1号は、次のように定められています。
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
中古車売買契約は、消費者契約に該当しますから、消費者契約法9条1号の適用もあります。
そうすると、契約をキャンセルした場合に、業者側に発生する平均的損害はいくらになるか問題になりますが、実際に発生していない費用まで損害に該当することはありません。
したがいまして、発生しないであろう損害を根拠とする違約金条項は無効と言うことになります。
3. 判例
売買代金の15%が違約金となるという条項が入った中古車売買契約につき、当該違約金条項の効力を否定しています(大阪地裁平成14年7月19日判決)。
(1) 本件売買契約が,消費者契約法(平成13年4月1日施行)2条3項に定める消費者と事業者との間で締結される契約であり,同法の適用があることは明らかである。
そして,消費者契約法9条1号に定める「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」は,同法が消費者を保護することを目的とする法律であること,消費者側からは事業者にどのような損害が生じ得るのか容易には把握しがたいこと,損害が生じていないという消極的事実の立証は困難であることなどに照らし,損害賠償額の予定を定める条項の有効性を主張する側,すなわち事業者側にその立証責任があると解すべきである。
(2) これを前提として本件について検討するに,本件では,被告による本件売買契約の撤回(解除)がなされたのは契約締結の翌々日であったこと,弁論の全趣旨及び証拠(被告本人)によれば,原告担当者は,本件売買契約締結に際し,被告に対し,代金半額(当初全額と言っていたが,被告が難色を示したため,半額に訂正した)の支払を受けてから車両を探すと言っていたことが認められることなどからすれば,被告による契約解除によって事業者である原告には現実に損害が生じているとは認められないし,これら事情のもとでは,販売業者である原告に通常何らかの損害が発生しうるものとも認められない。
原告は,本件売買契約の対象車両は既に確保していたとするが,それを認定するに足りる証拠はない上,仮にそうであったとしても,被告に対してそのことを告げていたとは認められないし,また,被告の注文車両は他の顧客に販売できない特注品であったわけでもなく,被告は契約締結後わずか2日で解約したのであるから,その販売によって得られたであろう粗利益(得べかりし利益)が消費者契約法9条の予定する事業者に生ずべき平均的な損害に当たるとはいえない。
もっとも,厳密に言えば,原告が取引業者との間で対象車両の確保のために使用した電話代などの通信費がかかっているといえないこともないが,これらは額もわずかである上,事業者がその業務を遂行する過程で日常的に支出すべき経費であるから,消費者契約法9条の趣旨からしてもこれを消費者に転嫁することはできないというべきである。
(3) したがって,本件特約条項③に基く本件違約金請求は,消費者契約法9条1号により許されない。