M&Aで会社を売却する場合のリスク回避策
詐欺に遭った気分ですが、どうすればよいでしょうか。また予防策はあったのでしょうか。
ご回答
M&Aは有効な承継手段ですが、適切な措置を講じないと、会社や個人資産を失うリスクがあります。近年こうしたトラブルは急増しており、中小企業庁も令和6年8月30日に「M&Aに関するトラブルにご注意ください」との注意喚起記事を発表しました。同資料でも、個人保証が解除されない事例や、譲渡代金の後払い約束が反故にされる事例が紹介されています。
この種のトラブルは事後的な解決が非常に困難なため、実行前の契約段階での徹底した予防策(自衛)がすべてとなります。
1.想定される主な法的リスク(事後解決が困難な理由)
(1)契約解除の困難性と原状回復の限界(民法第541条等)
一般的な株式譲渡契約では取引後の解除を制限する条項が多く、法的な解除へのハードルは極めて高いです。仮に解除できても、既に会社資産が処分されていれば元の状態に戻すことは不可能です。
(2)相手方の財産隠匿・資力喪失
会社を廃業に追い込むような悪質業者は、法人の資産を意図的に空にしているケースが大半です。勝訴判決を得ても、相手方に財産がなければ損害賠償を現実に回収することはできません。
(3)連帯保証債務の独立性(民法第454条)
当事者間で「連帯保証を解除する」と合意しても金融機関(債権者)を拘束しません。金融機関が買い手の信用力を認めない限り前オーナーの連帯保証は外れず、主債務が履行されなければ前オーナーへ請求がなされます。
2.リスク回避・軽減のための具体的措置
(1)厳格な違約金条項と解除権の留保(民法第420条)
分割払いや連帯保証の解除について、「期日までに履行しなければ契約を解除できる」という明確な解除事由を定め、不履行時の具体的な違約金額や発生条件を明記して相手方に強い金銭的プレッシャーを与えます。
(2)相手方「個人」の連帯責任化
責任の追及先を買い手「法人」だけにとどめず、その企業の経営者や実質付支配者などの「個人」も契約の当事者や連帯保証人に巻き込むことが重要です。これにより、法人を潰して逃げ切る悪質なスキームを封じ込めます。
(3)経営状態の維持(コベナンツ)条項の導入
譲渡後、一定期間は従前の経営状態を維持させる義務(従業員の雇用条件を変更しない、主要資産を処分しない等)を契約に盛り込み、違反した場合はペナルティや解除の対象とすることで会社の資産を守ります。
(4)メインバンクへの事前相談と段取り
連帯保証の解除を確実にする最大のポイントは、譲渡契約を結ぶ前に自社のメインバンクへ相談しておくことです。買い手候補の信用力を銀行側に事前審査してもらい、「譲渡と同時に確実に保証を解除できる段取り」を内定させておく必要があります。
3.結論
M&Aによるハッピーリタイアは、あらゆる不測の事態に備えたコンプライアンス体制と、徹底的に作り込まれた契約書があって初めて成立します。事後的な裁判による解決は、時間も費用もかかり、回収不能のリスクも高いため費用対効果が合いません。弁護士は過去の失敗事例や悪質業者の手口を熟知しています。取り返しのつかない事態に陥る前に、まずはM&A実務に精通した弁護士などの専門家へご相談されることを強くお勧めいたします。
月刊東海財界2026年8月号掲載
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。




