保険会社の調査に対する協力義務
保険事故発生の偶然性の立証責任は、最高裁判決により、保険会社側にあることが明らかになりました(盗難については微妙ですが。)。
したがって、保険会社による調査は今まで以上に厳格に行う必要があります。
にもかかわらず、契約者が調査に非協力的では、保険会社は打つ手がありません。
近時、名古屋高裁で、調査協力義務違反による支払免責を認めた裁判例が下されました。したがって、保険会社としては、契約者に対し、調査への協力を誠実に依頼し、それでも拒絶された場合は、拒絶事実を記録し、弁護士にご相談されると良いと思います。
参考判例
自保ジャーナル(平成20年3月13日)
事実の要旨
甲保険会社と自動車保険契約しているXは、平成17年5月13日午後6時59分ころ、
三重県下で路外逸脱し、海中に転落して新車価額保険金400万円を求めて訴えを
提起した。
1審裁判所は、305万円の保険金支払いを認容した。
甲保険会社控訴の2審は、Xは「約款の一般条項14条(9項)に違反する」として、
1審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。
判旨の抜粋
ウ Xの上記12)アの説明内容は、上記鑑定結果と大きく食い違っている。
即ち、
①本件車両の速度の点では、
クリープ走行程度(速度はほとんど出ていない。)なのか、
時速約19km/時間程度なのか、
②進行方向の点では、運河に向かって左ヘハンドルを切って進行したのか
(この場合、運河への落下は運転席側からとなる。)、
本件車両の前部を北に向け、護岸道路を左に逸脱して運河に転落したのか
(この場合、同運河への転落は助手席側からとなる。)
の点において、大きく食い違うことになる。
③ さらに、本件車両は、横転しながら転落したものと推測されるものの、
Xは、この特徴的な転落状況を窺わせるような説明は何もしていない。
このように本件車両の運転(切り返し操作)中に本件事故に至ったのであるならば、
速度、進行方向などの基本的な客観的状況と一致しない説明がなされるということは
明らかに不自然であり、
転落態様について横転という特徴的な事柄に関して説明が欠けるということも
通常考えがたいところである。
したがつて、Xの上記(2アの説明内容も、
記憶どおりに正しく説明されていないものと認められ、
これは甲において、本件事故が保険事故であるか否か、
支払拒絶事由(Xの故意による事故)があるか否か検討するための
重要な事故態様に関するものであったということができる。
(6)以上(3)ないし(5)で検討のとおり、
Xの本件事故の態様、本件事故後の経緯や携帯電話に関する説明は、
いずれも甲において本件事故が
保険事故であるか否か、支払拒絶事由があるか否か検討するための
重要な事項に関する説明であるところ、
その説明内容は、いずれもXの記憶のとおり正しくなされてはいないと認められる。
このようなXの行為は、
本件保険契約約款の一般条項14条(9)に違反するものであって、
同条項15条1項により保険金の支払拒絶事由にあたるものと認められる。
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。