転職・引き抜き
長年右腕として厚遇してきた営業部の川上部長(取締役兼務)が知らないうちに同業のアトランタ興業に引き抜かれることになってしまいました。
それだけでなく川上部長は営業部の半数にあたる10名ほどの従業員を同時にアトランタ興業に移籍させたのです。
やり方も汚くて,部下達を慰安旅行と偽って連れ出しアトランタ興業への転職を迫り,アトランタ興業の社長まで登場させて,全員をその日のうちに転職させたそうです。
営業部が半分になった龍神商事の売上は半分以下に落ち込んでしまいました。
転職の自由?
落 川上部長を呼び出して,話し合いの機会をもうけましたが,川上部長は「自分の力を試したくて うずうずしていた部下達の背中を押しただけで,何も悪くない。転職の自由は誰にでもある。」などと,交渉は平行線でした。
弁 職業の自由と言っても何をしてもいいというわけではありません。
転職の自由は最大限に保障されなければなりませんが,単なる引き抜きではなく,①退職の時期を考慮しあるいは事前に予告を行う等,会社の正当な利益を侵害しないよう配慮することなく,②会社に内密に移籍の計画を立て,かつ③一斉に大量の従業員を引き抜く等,社会的相当性を逸脱し極めて背信的な方法で行われた場合,当該首謀者らも責任を負います(東京地裁平成3年2月25日判決)。
したがって,本件では,川上氏は重要なポストにあったのに,会社に大打撃を与えるような人数の引き抜きを秘密裏に且つ騙し討ち的な方法で実行したのですから,損害賠償責任は免れないでしょう。
落 では,川上部長にきっちり責任をとってもらいましょう。
弁 私から,川上部長に内容証明を送り,交渉をしてみます。
書面を取り付けよう
弁 あらかじめ川上部長に誓約書などを取り付けておくと,川上部長に対する警告になったり,交渉も楽になったと思います。
落 誓約書ってどんなのですか?
弁 たとえば,退職の場合,2年間は近隣地域の同業他社には就職できないとか,近隣地域での営業活動を自粛する,等を誓約させるのです。
落 どういうタイミングでやるんですか?
弁 従業員が管理職や役員になるタイミングで取り付けるのが望ましいですね。
落 今後は必ずとるようにします。
弁 そうして下さい。
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。