任期途中の取締役解任の正当性
今般、ある取締役が代表取締役と仲違いをして、株主総会で解任されました。任期4年目のことでした。
元取締役は、弁護士を通じ、残り任期6年分の役員報酬に当たる金銭を支払え、と当社に要求してきました。
どう対応したらいいか、大変悩んでおります。
ご回答
1 取締役の解任には正当な理由が必要。
まず、取締役を解任する場合、会社法上、正当な理由がないとき、解任された取締役は、会社に対して、損害賠償請求できるとされています(会社法339条2項)。
正当な理由は、具体的には、病気で職務を続けられないこと、法令違反または不適正な職務執行をしたこと、経営能力が無いこと、などが挙げられます。
他方、他の取締役や経営陣と折り合いが合わなくなったとか、株主の信頼を失ったなどでは、正当な理由にはなりません。
正当な理由がない場合、原則として会社は、残り任期の役員報酬相当額を支払わないといけません。
2 役員の任期は短めに設定しましょう。
このように、残り任期の役員報酬相当額を払わないといけない以上、取締役の任期は短い方が安全だ、ということになります。
よって、取締役の任期は、短めに設定するのが無難であり、通常の任期である2年程度としておくのが望ましいです。
3 解任せずに取締役の任期を短縮する?
では、【質問】のように10年の任期が設定されていた場合、残り任期(6年)分を必ず賠償しなければならないのでしょうか。
実は興味深い裁判例があります。
その裁判例の事案は、今回と同じく10年の取締役任期を定めていた会社で、株主総会で定款を変更し、任期を1年に短縮し、在任中の取締役を退任させたものでした。
裁判所は、このような任期短縮によって取締役が退任するのは有効であるとし、しかも、損害額を退任日から2年間に限定しました(東京地裁平成27年6月29日判決)。
今回のケースでいうと、6年分の報酬額ではなく、2年分の報酬額で済むかもしれない、というわけです。
4 解任は慎重に。
取締役は、正当な理由がない解任に対し、損害賠償請求ができ、身分が保障されています。
よって、会社としては、正当な理由を立証できるように、解任前にきちんと証拠を固めておくべきです。
また、長い任期が設定されている場合は、解任ではなく、任期を短縮して退任させるという方法によるのが適切な場合もあるでしょう。注意して頂きたいです。
月刊東海財界2024年2月号掲載
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。