失火原因に関する新聞の誤報と、クラウドファンディングについて
店舗兼事務所として、一建家を賃借していましたが、最近隣家から火災が発生して、借りていた建物は全焼し、在庫商品も全滅しました。また、私の賃貸建物に隣接する建物も全焼しました。翌朝の新聞に、私の賃借建物が出火元との報道がなされて、ネット上では、非難する書き込みもなされ、取引先との関係も悪化することが懸念されます。他方、私はいち早く事業を再開したいと思い、クラウドファンディングを利用して資金を集めたいと思っています。今回の件で、法的な観点からアドバイスをお願いします。
ご回答
まず、火災により発生した被害つき、損害賠償責任の観点からお話しします。
相談者が出火元に対して、損害賠償請求できるか、ですが、失火責任法では、「原則として失火者に対して損害賠償責任を問えない。だたし、失火者に重大な過失がある場合は除く。」とされています。
日本では木造住宅が隣接して建築されているため、損害が過大になるため、失火者を保護するため制定されました。『重大な過失』とは、著しく注意力を欠いた、という場合を指します。例えば、ガスコンロに、天ぷら油の入った鍋を、かけたまま台所を離れたため出火した事例において、認定されました。
相談者としては、出火元に重大な過失があれば、損害賠償請求は可能です。隣の建物の所有者に対して、そもそも過失がないので、損害賠償責任はありません。もっとも、賃貸建物の所有者に対しては、賃借人は賃貸借契約上、賃貸建物を善良な管理者として管理する義務があるので、過失があれば損害賠償責任を負うこともあります。ただ、火元ではないので、責任はありません。
新聞記事の誤報により被害を被ったことは、確かに深刻な問題です。誤報が不法行為にあたるか、ですが、一般的には新聞記者は取材をして、記事の裏取りをしています。消防署や警察署、あるいは出火元にも確認して記事を書いているはずです。この確認が杜撰だったとすれば、新聞社に過失責任があると思われます。ただ、損害があったとして、どのような損害があったか、の立証が難しそうです。多くの場合は、新聞社に抗議して、訂正謝罪記事を書かせることに留まるのではないかと考えられます。
次に、クラウドファンディングについてですが、最近は、よく利用されており、多額の金額を集めているケースもあります。
クラウドファンディングを利用する場合、その仕組みや利用方法に関するノウハウも必要なことから、まともなクラウドファンディング業者を利用した方が良いと思います。クラウドファンディングには、投資型、寄付型、リターン型がありますが、今回の場合は、寄付型で返礼品を渡す、というタイプになると思われますが、返礼品については、総務省通知による規制があるので注意が必要です。
月刊東海財界2023年2月号掲載
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。