保育施設の退園にあたり、父兄から入会金、保育費、教材費、施設協力金を返還するように申入がありました。どのように対応すれば良いですか。
ところで、私どもで、申し込みいただいた父兄の方と、1年を単位で契約書(利用規約)を交わしていますが、途中で辞めた時の対応として、「一旦納入された入会金、保育費、教材費、施設協力金は、理由の如何に関わらず返金されないものとする。」としています。
ところが、この度、入園して1ヶ月しか経っていない父兄から、理由もなく、退園するので、納入した入会金、保育費、教材費、施設協力金の12分の11を返還するように申入がありました。どのように対応すれば良いですか。
ご回答
古くは、契約書に明記されている以上、公序良俗に反するような暴利・不当な内容でない以上、原則有効と考えられてきました。
しかし、平成13年4月1日に消費者契約法が施行され、消費者契約について、不当な勧誘による契約の取消しと不当な契約条項の無効等を規定しました。その後も、取り消しうる不当な勧誘行為の追加、無効となる不当な契約条項の追加等の民事ルールの改正が行われました。
返還の是非を検討するにあたり、入会金、保育費、教材費、施設協力金については、個別に考える必要があります。
入学金については、契約書に、入学金は原則返還できないとの約束があれば、返還する必要はないと思います。そのような約束がなければ、入学前なら返還義務があると思います。しかし、入学後であれば、もはや返還は求められないと考えます。
この点について、最高裁は、「入学金については、‥その性質上大学はその返還義務を負うものではない」という判断をしており(最高裁平成18年11月27日判決)、保育園においても、同じように考えられるからです。
保育費、教材費、施設協力金等については、原則返還できないとの約束がないケースでは、一部返還すべきだと考えます。
上記の最高裁の事案でも、授業料等の返還も争われ、最高裁は、原則として、大学を退学した後については、学生は大学から何らの給付も受けていないのであるから、退学後の部分については返還すべき、と判断しています。本件でも、途中退園の場合は原則として、月割りでの返金が必要と考えます。保育料の返金義務を認めた裁判例(東京地裁令和2年12月17日判決)もあります。
しかし、年会費、教材費、施設協力金等について、返金しないという約束がある場合は、話が変わってきます。
上記の最高裁の事案においても、授業料等については返還しないという規約があったため、最高裁はこれを、損害賠償額の予定又は違約金の定めと考えて、有効としました。さらに、消費者契約法9条による、損害賠償額の予定や違約金の定めについては、「平均的な損害」を超える部分が無効となるとしました。
本件でも、年会費、教材費、施設協力金等を原則返金しないという規約は有効となりますが、「平均的な損害」を超える部分は無効となります。
月刊東海財界2022年11月号掲載
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。