賃借人の地位は強いのか、弱いのか?
今般、賃貸アパートを建て替え、また、駐車場も廃止して賃貸アパートを建築したいと考えています。いずれの物件にも賃借人がいるのですが、すぐに解約し、明け渡してもらえるものでしょうか。
よく、法律上、賃借人の地位は強い、一度貸したら簡単には返してもらえない、と言われていますが、実情はどうか教えて下さい。
ご回答
1 賃貸借契約の種類によって賃借人の立場が違う
よく、賃借人の法律上の地位は強い、不動産を一度貸したら一生返してもらえないと思った方がいい、と言われることがあります。
他方、賃借人の地位は弱い、賃貸人から返せ、と言われたら、賃借人は応じるしかない、と真逆のことが言われることもあります。
一体、どちらが正しいのでしょうか?
結論から言うと、賃貸借契約の種類によって、賃借人に対する保護が全く違うので、「契約の種類によります。」というのが正しい答えです。
では、どのような種類の契約で賃借人が保護され、あるいは保護されない、のでしょうか。以下でご説明します。
2 賃借人が保護される賃貸借契約
(1)賃借人が保護される賃貸借契約としては、①建物所有目的で土地を借りた場合、②建物を借りた場合、が挙げられます。
①は土地の借主が自分名義で建物を建築するような場合です。
これらの場合、借地借家法で賃借人にとても強力な保護が与えられ、賃貸人側から容易に解約できないことになっています。
(2)上記のような、①建物所有目的の土地賃貸借や②建物賃貸借では、賃貸人が警戒して不動産を貸せなくなってしまう、という声を受けて、定期借地契約、定期建物賃貸借契約の制度が用意されています。
これらの契約は、契約更新が認められず、契約期間の満了により、確定的に賃貸借が終了するものです。よって、賃貸人は安心して不動産を貸すことができます。ただし、様々な条件を満たさないといけないため(条件を満たさないと(1)のように賃借人が強力に保護されます。)、専門家によく相談して慎重に書類を整える必要があります。
3 賃借人が保護されない賃貸借契約
これに対し、駐車場、資材置き場等、建物所有とは無関係の賃貸借契約は、比較的容易に賃貸人から解約できます。
契約で期間が定められている場合は、当該期間で、特に期間が定められていない場合は、解約申入れから一定期間経過で、賃貸借契約を解約することができます。
2と違って借地借家法による賃借人保護が無いので、容易に解約し賃借人に明渡しを求めることができるのです。
4 結論
今回のご相談に即して言うと、アパートの賃借人に明渡しを求めるのは、借地借家法の適用ある建物賃貸借契約ゆえ強い保護があり、かなり大変です。これに対し、駐車場は、借地借家法の保護が無いため、賃借人に明渡しを求めることは容易だ、ということになります。
このように、一口に賃貸借契約といっても、賃借人の地位に強弱があるため、そのような地位を踏まえて賃借人との交渉に臨むと良いでしょう。
月刊東海財界2024年11月号掲載
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。