落とし穴~労災保険給付と求償
- 労災保険給付の求償については驚くべき落とし穴がある場合があります。
- ある会社の工場で従業員がリフトカーで作業していたところ,歩行中の清掃員をリフトカーでひいてしまいました。
清掃員は大けがを負ってしまいました。後遺障害も遺りました。
清掃員は,労災認定を受けて,400万円の給付金支給を受けましたが,後日,労災からその会社に対し400万円のうち320万円を国に払いなさいという請求が来ました。
- 通常,労災給付金が支給されても,給付金の一部を求償されることはありません。
では,なぜ,その会社が給付金の一部を払えと請求を受けたのでしょうか。
実は,その清掃員が当該会社の子会社の従業員だったからです。
- 労災の求償に関する通達(昭和44.3.23基発148号)では,求償しない労災事故の事案を次の場合と規定しています。
①同僚労働者の加害行為による場合
②同一事業主の事業場を異にする労働者の加害行為による場合
③同一作業場内において同時に作業を行う使用者を異にする労働者の加害行為による場合 - ①②の場合に求償しないのは,結局,労災の掛金をその使用者が払っているのであるから,求償すると,何のために使用者が掛金を払っているか分からなくなる,という理屈から分かります。いわば当然のことです。
しかし,③については,少し趣旨がはっきりしません。
監督署では,③は,加害者と被害者が同一作業場において互いに危険を共有しているかどうかで判断するという解釈をとっているそうです。
上記のケースだと,たしかに,③同一作業場内で同時に作業を行っているのですから,あてはまりそうですが,清掃員がリフトカー作業員に危害を加えるといったことは想定できないため,③に該当しないと判断されます。
釈然としませんが,本来的には国から加害者に求償するのが原則ですから,求償しない場合を限定的に解釈しても,それは国の勝手だ,ということでしょうか。
投稿日:2013年8月02日 08:34|カテゴリー:労働問題