遺言書の基本のき
先日,ある直木賞作家の短編小説を読んでいたら,遺言書の話が出てきました。
亡くなった会社社長が,長年一緒に会社を手伝ってきた二男ではなく,都市銀行に勤めている長男の方に自分が経営する会社の株式を遺贈する,というあまりに不合理な内容の遺言書をのこしたのです。
長男は,会社社長が体調不良となった時に病院に足繁く訪れ,最終的に,弁護士に関与してもらって,ワープロでうった遺言書に社長の署名・押印を取り付けたようです。
二男は,遺産分割協議の際,長男が弁護士をひきつれて遺言書の有効性を強く主張したため,辟易して,相続を放棄しました。周囲の者が,本当に署名が本人のものか確かめるべきだった,とくやしがっている様子が描かれています。
私は,遺言書の話が出てきた時点で,おや?と思い,弁護士が遺言書の有効性を主張するくだりで,なんだそりゃ?という気分になってしまって,読む気が一気に失せてしまいました。
我々弁護士にとっては常識(法学部の生徒でも知っている)なのですが,自筆証書は,全文を手書きしなければならず,ワープロうちの文面では完全に無効になります。署名・押印が本人のものであっても何らの効力も無いのです。
したがって,「弁護士」がワープロうちの遺言書に本人から署名・押印を取り付けるなどと言う間抜けな話は絶対に生じようが無いわけです。
このように,署名・押印が本人のものか否か確かめるまでもなくこの遺言書は無効でありますので,話が滑稽でしょうがありません。
自信が無いなら遺言書について最低限のことを調べてから小説を書いて頂きたいものです。
ところで,本人が遺言書全文を自筆で書かなくても遺言書として有効になる場合があります。
それは,公証人を関与させて遺言公正証書を作成する場合です。この場合,本人は公証人から意思確認を受けた上で,署名・押印すれば有効な遺言書が作成できます。
手が震えて字が書けなくなっているような場合(もちろん,本人の意思能力は必要です。)には,自筆証書ではなく,公正証書を選択するのがまともな弁護士のやり方ですね。
投稿日:2013年11月15日 12:47|カテゴリー:相続