最近は,パソコンソフトのコピーは簡単にできない仕組みができていますが,それでも,一部のパソコンソフトについて不正コピーが後を絶ちません。
こういった不正コピーをしてしまった場合,当事者が損害賠償責任を負うのは当然のことですが,たとえば,コピーした本人が反省し,後日正規に当該ソフトを買ってインストールした場合,損害賠償責任を免れることはできないでしょうか。
ソフト会社にしてみれば,最初から正規にソフトを購入されていれば得られたであろう代金以上に損害賠償請求を認める必要はないのではないだろうか?とも思えるため,問題になります。
この点について,マイクロソフト外2社とLEC(東京リーガルマインド)との間で争われた事件が有名ですので,ご紹介致します。
東京地裁平成12年(ワ)第7932号損害賠償等請求事件を引用します。
「被告は,西校校舎内の本件プログラムについての違法複製品をすべて正規品に置き換え,正規品を購入することによって許諾料全額を支払ったから,原告らの損害は生じていないと主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,被告の原告らに対する著作権侵害行為(不法行為)は,被告が本件プログラムをインストールして複製したことによって成立し,これにより,被告は,本件プログラムの複製品の使用を中止すべき不作為義務を負うとともに,上記著作権侵害行為によって,原告らに与えた損害を賠償すべき義務を負う。そして,本件のように,顧客が正規品に示された販売代金を支払い,正規品を購入することによって,プログラムの正規複製品をインストールして複製した上,それを使用することができる地位を獲得する契約態様が採用されている場合においては,原告らの受けた損害額は,著作権法114条1項又は2項により,正規品小売価格と同額と解するのが最も妥当であることは前記のとおりである。その意味で,本件においては,原告らの受けた損害額は,被告が本件プログラムを違法に複製した時点において,既に確定しているとみるのが相当である。」
★要するに,つまり,正規にソフトを購入しても過去に発生した損害賠償請求権を事後的に消滅させることにはならない,ということです。
「確かに,被告は,原告らから違法複製品の使用の中止を求められた後,新たに本件プログラムの使用を希望して,自ら選択して,本件プログラムの正規複製品を購入したこと,上記正規品は,違法複製品と同一又は同種(違法複製品とは版の異なるものも存在する。)のものであることが窺える。しかし,被告の上記行為は,不法行為と別個独立して評価されるべき利用者としての自由意思に基づく行動にすぎないのであって,これによって,既に確定的に発生した原告らの被告に対する損害賠償請求権が消滅すると解することは到底できない(もとより,弁済行為と評価することもできない。)。
顧客は,価格相当額(許諾料相当額)を支払うことにより当該正規品(シリアル番号が付された特定のプログラムの複製品)を将来にわたり使用することができる地位を獲得するが,その行為(当該正規品についての所定の条件の下での使用許諾申込みを承諾する行為)により発生した法律関係が,顧客と著作権者らとの間において既に成立した権利義務関係(損害賠償請求権の存否又は多寡)に影響を及ぼすものではないことはいうまでもない。」
★要するに,任意に正規品を購入してもそれは将来の権利を設定したことにしかならない,ということです。
「この点,被告は,当初から正規品を購入した場合や,最後まで正規品を購入しなかった場合と不均衡が生ずるから不都合である旨主張する。しかし,当初から正規品を購入した場合には違法複製行為がないのであるから,損害を賠償する義務がないのは当然のことであって不均衡とはいえないし,最後まで正規品を購入しなかった場合には,本件プログラムの複製物の使用が許されないのであって,自らの自由意思により,正規品を購入して将来にわたり使用する地位を確保した本件のような場合とはその前提を異にするから,やはり不均衡とはいえない(被告において,本件プログラムに係る正規品を購入せず,他社のプログラムを購入するという選択もできる。)。さらに,本件全証拠によるも,被告が正規品を購入したことにより,原告らが被告に対して,損害賠償義務を免除する旨の意思表示をしたと認めることもできない。したがって,上記主張は理由がない。」
★正規品を購入するならば,そのときに,原告から損害賠償義務の免除を受けておくべきだった,ということになります。
LECは,結果的に2倍の料金を支払うことになってしまいました。ソフトウェアの不正コピーに対する民事的制裁は重い,ということです。